追憶と、踊りながらのレビュー・感想・評価
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大きな地球の上で、たった二人で残されて
ポルポトの大量虐殺から逃れて、中国の圧政から逃れて、今はイギリスに住んでいる寡婦と息子と友人のストーリー。
老人介護施設が舞台です。
僕はかつて特別養護老人ホームに勤めていました。
それゆえホームの施設や内装や、職員の介護の様子、また入居者たちの暮らしぶりにはとても興味があります。
いま読んでいる小説も高齢者施設のお話。村田喜代子著「エリザベスの友達」。老人ホームに入居する母たち・娘たちの、その人生に織り込まれた深い襞 (ひだ)を、更に女性作家の目線で書いたもの。
親世代・子世代のこれからについては、丁度僕自身の対面している問題です。
身を乗り出して鑑賞しました。
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移民、難民。
新天地での言葉の問題。
意外と早く現地の生活に馴染んでしまう子供世代と親たちとの気持ちの断絶、
・・この極めて今日的な課題に、思いもしなかった我が子のLGBTも絡んでくる。
人の人生というものは本当に複雑ですね。
英国人アランは中国人ジュンに首ったけ。
でもラブコールは失敗し、しょんぼりと撃沈のアランなのでした。
そういえば
日本のある老人介護施設で、
「お年寄りが元気がない、特に男性陣。どうやってみんなに元気になってもらうか??」
職員たちでアイデアを出し合ってかんかんがくがく話し合ったそうです、
で、「試しにやって見ようか!」と実行に移されたのが【混浴】。
結果は?
おじいさんおばあさん共に生気が戻ったのだそうです。
イギリスではこれは難しいかな?(笑)
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夫を失いふるさとを失った母ジュンの表情が素晴らしい。
戸惑いと恋心、訝る心と激しい怒り。異国での不安と祖国への思慕。
被写界深度を浅くしたカメラが、丹念に登場人物たちの顔を撮っていく。
息子カイの巣立ちを喜んで見送るためには、まだ母親自身が大きな傷から立ち直っていないのだ。
しかし息子カイは (仕方のないことだが)自分だけの将来を歩きだそうとしている。
そして悲劇だ。
喪失感と幸せな日々が、カイの部屋とカイのベッドの残り香を軸に、過去と現在を行き来する。
みんな死んでしまい、一番相性の悪いジュンとリチャード、この二人だけが世界にぽつんと取り残されてエンディング。
受け入れ合うことの叶わない二人が、カイのために初めて見つめ合って泣く。
この先どうなるかは分からないけれど、ガラス細工のような繊細でもろい人間模様でした。
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ベン・ウィショー、本当に泣いてましたね。
いい雰囲気を持った俳優です。
アントン・ウェルチンやギャスパー・ウリエルみたいに悲しい夭折などせずに、独特の存在感で、どうか長く銀幕で頑張ってもらいたい。
愛の記憶と共に
母と恋人。言葉も文化も相容れない2人が共有するのは、愛と孤独。異国の地で母が初めて誰よりも深く通じ合えたのは愛の記憶。
残された者にできる事はただ忘れない事。絶え間無く続くその悲しみも残された者に唯一許された救いだから。想い出を傍に、それでも続く日々を、生きてゆく。
冒頭に流れる夜来香の歌詞
「長き夜の泪 唄ううぐいすよ
恋の夢消えて 残る夜来香」
母が感じた息子の匂い。恋人が好きだと言った彼の匂い。映像越しに感じとれた気がした。
儚く美しく優しい。繊細な演技と描写に胸がうたれる。
喪失
カンボジア系中国人の母子とゲイのカップル。母は息子を亡くし、男は恋人を亡くした。
残されたふたりは、言葉が通じませんでした。コミニケーションを取る上でも、不都合です。ただし、言葉は絶対的ではありませんでした。喪失を共有した彼らが共有できるのは、言葉ではありませんでした。
彼らの喪失感が癒えることは恐らくないでしょう。しかし、母のこの一言はその絶対的な喪失感の中で培われた息子に対する弔いと「生」という不条理の中から、やっと見つけ出した答えのように思いました。
「今日と違う明日は来るでしょう。私は人生を続けて行く。」
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