「美しいラブシーン」追憶と、踊りながら よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
美しいラブシーン
李香蘭の唄う「夜来香」が流れ、モダンでシックな壁紙の文様をゆっくりと目で追うかのようなオープニングのカット。ウォン・カーウァイ風味である。ゆっくりと移動するカメラはその後も変わることなく続く。
チェン・ペイペイ演じる主人公のジュンと一人息子が話をしている。そこへ女性職員が電球の交換に来たところで、ベッドに寝そべっていたはずの息子が消えている。
オープニングからここまでのほんの短い時間で、この物語の基礎となる主人公の境遇や大切なわが子を失った事実を、簡潔かつ正確に伝えている。理屈っぽいセリフや、説明的な回想などを全く入れることなく観客に基本情報を伝えることに手慣れた感じがする。
映画にはセックスにおける二組のマイノリティが登場する。一組はゲイのカップル。もう一組は異民族・異文化・異言語でかつ高齢者同士のカップル。息子を失ったジュンは、その外界との唯一のパイプが失われたことで、こうした現代世界を覆う諸問題と同時多発的に向き合わなければならくなった。
ベン・ウィショー演ずる息子の恋人はジュンにそれらの問題を乗り越えてもらうべく様々な手伝いをする。それによって少しずつ変わっていくジュン。映画のジュンへの眼差しが暖かく、こちらも胸が熱くなる。
ところが、ジュンを動かすことになるその熱意がどこから来るのかが曖昧。愛した人の母親だからだろうか。そのあたりにしっかりと焦点をあててくれたら言うことなかった。
ベン・ウィショーとアンドリュー・レオンのラブシーンが美しかった。ゲイでなくともその美しさに見惚れてしまう。私の並びの席にいたそれと思しき男性二人が、そのシーンに息をのんでいたのが印象的だった。
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