「不屈の人、罪を憎んで人を憎まず・・・」不屈の男 アンブロークン odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
不屈の人、罪を憎んで人を憎まず・・・
主人公ルイス・ザンペリーニさんの数奇な運命の伝記に惹かれて、あのアンジーが監督を買って出たのだという。彼は高校時代にベルリン・オリンピック5000mに出場、その後B-24の爆撃手として太平洋戦争に従軍、機のエンジン故障で海に墜落し47日間の漂流と、2年間の捕虜生活の末、生還する。映画は捕虜時代の虐待に耐えるところが主なので日本人としてはなんとも辛いですね。
ただ、収容所長の渡辺がルイスと同じオリンピックに出ていたような意味深なシーンを入れるので、レースに負けた個人的な妬みで虐めているように見えて錯覚してしまうでしょう。
渡辺の部下たちの証言では根っからのサディストだったらしいが気の小さい男ほど権力を誇示して部下に舐められまいとするパワハラの典型かもしれない、本人は鉱山や旅館を営む裕福な家の出で、早稲田の仏文を出て同盟通信社に勤めていた経歴なので英語が話せたのだろう、ルイスを米国への宣伝放送に使おうとするくだりは、その辺の縁なのだろう。ルイスが逆らったので顔を潰された格好の渡辺は憎さが倍増、虐待がエスカレートするのだった。
なぜ俳優でもないMIYAVIが演じるのか疑問だが粗暴な軍人タイプでないだけに妙な不気味さは出ていました。
渡辺は捕虜虐待で戦犯とされたが7年間逃げ延び訴追を免れたのだが本人は反省どころか軍務と開き直っていたらしい。ルイスはPTSDに悩まされたが妻の影響で宗教の道に入り、捕虜時代の虐待を許す気持ちになったと言う、まさに罪を憎んで人を憎まずを実践した不屈の人でありました。
それはそれとして、捕虜たちが大森から直江津に移送されるシーンで米軍の爆撃で焼け野原になった東京の市民の死体累々の中を茫然と歩くところに注目、爆撃手でもあった主人公の胸中は複雑だったであろう。映画では1分足らずの短いショットでルイスの表情のアップも無い、アンジーの信条としての人類愛がテーマであればこのシーンにもっと力を注ぐべきだった、単に理不尽に耐えた不屈の人を讃える映画になってしまう所がアンジーの力不足ということでしょう。