「反日映画なんて間違いの極み」不屈の男 アンブロークン 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)
反日映画なんて間違いの極み
アンジェリーナ・ジョリー監督第2作はオリンピック選手ルイ・ザンペリーニの波乱の半生を綴り、歴史を忠実に描いた伝記映画だ。
この映画は反日映画と物議を醸し、日本での公開が危ぶまれた背景があった。同時にアンジー監督も反日だと批判を受けた。
最初に言っておくとこの映画は反日でも何でもない。映画を観る前に酷評をし日本公開に待ったをかけた日本映画業界は恥を知るべきである。
ではなぜ反日映画だと批判をあびることになったのか。今回の主役であるオリンピック選手ルイ・ザンペリーニが第二次世界大戦で出兵することになり、漂流や捕虜生活と死と隣り合わせの体験を潜り抜けるが、問題となるのは捕虜生活にあり捕らえたのが日本兵という点にある。そして、あまりにも非情で残忍な行為に反日の声があがったわけだが、この映画がアメリカ側の視点であり、ザンペリーニの視点でもあることを忘れてはならない。何よりこれは伝記映画であり、これを忠実に描き風化させまいと挑んだ努力の結晶ともいえる映画のどこが反日なのだろうか。確かに日本兵の扱いは傲慢であり、サディスティック一辺倒の行為が目立つがこれも歴史の一部であり、逆に描かなければこの映画は成立しない。それよりも日本兵の渡辺伍長を美形のMIYABIが演じることのほうが疑問視してしまう。
1957年公開の「戦場にかける橋」が類似的な要素で見られ、特に捕虜生活の期間は照らし合わせると面白いかもしれない。日本兵が外人を捕虜として扱う点は一緒であるが、扱い方や心情、その先にある感情のぶつけ合いから生まれるものは対照的という見方もできる。
そして捕虜生活から解放されたザンペリーニに待っていたのは「PTSD」というストレス障害。イーストウッド監督「アメリカンスナイパー」でもこれは取り上げられ、兵士にとって終戦は本当の終わりではないのだと痛感した映画でもあったが、ザンペリーニも同じ障害にかかり心が蝕まわれていく。治療に専念した結果、これまでの人生を振り返り悟りの境地とも言うべく一つの答えを出すわけなのだが、そこでとった行動に対してこれは現実にあった話かと考えると人間の限界は底なしだと改めて感じてしまった。