恋人たちのレビュー・感想・評価
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心の距離を映すカット
人の不幸は蜜の味などと言ったりもするが、この言葉の主はまだ他人の不幸に関心があるということになる。ここに登場する人々はその不幸を周囲の人に分ってもらうこともこともできずに、苦しみを抱えて生きている。
生きていれば辛いことや、理不尽な境遇に陥ることもある。しかし多くの場合、そうしたことが人生を崩壊させることに直接つながらないのは、周囲にその苦しみを理解する存在があるからだ。
人とは不思議なもので、同じ苦しみでも、人に理解を示されたり、苦しんいる姿を受け入れてもらえるだけでそれを乗り越えていくことがある。
そのようなものから見放されていたが、少しずつ取り戻していく男性と女性を一人ずつ。そのようなものに包まれていたつもりだったのに、突然失ってしまった男性が一人。そのようなものをはじめらから信じてはいない一組の男女が登場する。
とりわけ印象深いのは、「雅子様フィーバー」の時にTVに映った時のビデオを繰り返し観ている主婦である。そのビデオに映る若いころのその女性と雅子様、そのどちらも今は失われてしまった快活さや明るさに溢れている。その映像を夜中に虚ろな目で眺めている彼女の心の中にはどのような寂しさがあるのだろうか。何度か繰り返されるこのビデオのシーンだけでも十分にドラマチックだ。
もう一つ印象的なシーンは、妻を殺された男性が職場の女性との会話で、女性の母親が夕食に招待していることを伝えるというもの。
この瞬間に、この男性の周囲に誰もいなかった世界の半径が一気に縮まる。その距離感が、彼の飲んでいた缶コーヒーの上に、彼女が置いていったキャンデーが表していて、観ているこっちがホッとできる。冷たい孤独が温められて溶けていく様をスクリーンに切り取った素晴らしいカットだ。
一気に橋口監督のファンに!
その闇を
黒田大輔がいい!
最愛の妻を通り魔に殺された若者、田舎で姑と同居している主婦、ゲイのエリート弁護士と、彼らを取り囲む人達の群像劇。
通り魔への怒りが社会への怒りに変化して自分で生きづらくしてしまってる若者にしても、自他ともに認める才能を活かさずにいるし、暇つぶしに書いている小説を好きな男の前に置いておきながら「見ちゃやだー」と媚びを売るタバコ吸い過ぎ主婦とか、エリート意識が鼻につく弁護士、その他の周辺の人間もロクデナシばっか。共感する部分があるとは言え全面的には好きになれない人達の中で、唯一、若者の上司だけは泣けるほど良い人。
橋口亮輔監督の作品は初めて観たけどクスクス笑えるシーンも割とあり、他のも観てみたいと思った。
でも主婦の夫の変化などは説明がないというか無理があり、またその主婦が繰り返し見ている雅子さま御成婚当時のビデオの中で彼女の友達がスマホを手にしている?けっこう雑なのね、なんて。
じわじわと良くなって来た
人と幸せについて
脇役含め俳優陣がとても良かったです。
どれもメチャクチャはまってる。
主人公が複数いて、それぞれ生きにくさや辛さやもどかしさなどなど持っているが、主人公が複数いることで深く感情移入することなく立体的に「生きにくさ」のようなものを感じられた。
主人公がアツシだけだったら辛すぎて観るのは苦しかったかもしれない。
アツシが仏壇にむかって「一緒になってもいいって言ってくれた時に生まれてきてよかったなって」
とつぶやくところに涙があふれた。
人と心で繋がる幸せをとても大切に感じた。
詐欺師に騙された瞳子が呆然としながら結婚の馴れ初めを語る。
彼女はただただ人についていきながら生きてきたように思う。
最初はこの人はバカだなーと思ったけれど、時間がたつうちにバカだなとかはどうでもよくなってきて。
このおばさんも人と関わって幸せを求めながら生きてるんだなと。
人との幸せを考えさせられました。
もういない恋人との幸せはアツシには戻ってこないけれど、笑顔が戻るように祈ります。
ラストの空やチューリップに気分が救われました。
あっと言う間の220分。
タイトルをどうにかできなかったものか
シンプルでつまらなそうな題名をつけることによって、この映画の覚悟を感じるが、さすがにもったいないと思ってしまう。危うく自分自身、タイトルだけでスルーしそうになった。内容が素晴らしかっただけに、余計このタイトルについて疑問を感じてしまっただけなのだが─。
まさに社会の縮図がそこにあり、ひどいドキュメンタリーなんかよりもリアルな日本を感じ取ることができる。
日常を丹念に描きつつ、涙も笑いも怒りも幸せもエロスも醜悪さも、社会が持っている面白いところを全て網羅しているような気がした。
とにかく皆一生懸命につくってるなぁ、そう感じるて、自然と涙・・・。
主演の彼が思いっきり笑ったときが一番泣いたなー。
音楽もしっくりハマっていたし、何より自分が好きな部類のものだったから一層話に入り込んでいった。
東京の水上交通の映像も良かった。見れそうで見れないところ、そして何気に美しかったりするもので、ブルーに染まって見応えあり。
全てにわたって抑えが効いていて、短絡的になることなく、淡々と終結するところが非常に自分には合っていた気がする。
長くて平坦な映画だが、東京物語なみに最後まで飽きることなく観賞できた。
ドラマチックじゃない人間の複雑さ
登場人物(特に妻を亡くした男)の置かれた状況がつら過ぎて、始まるとすぐに、早く終わってくれ〜と思いながら観る。
分かりやすい盛り上がりはほとんどないが、役者たちの恐ろしくリアルな演技に引き込まれて、イヤな気持ちとはウラハラに目が離せなかなった。
今にも感情が爆発しそうなエピソードが積み重なるから、最後にとんでもないことが起きるのでは?という緊張感が続くが、たまにどうしようもない人間のバカバカしい振る舞いにクスリとくる場面もあり、とことん暗くならないバランスが良かったのかも知れない。
これまでの自分とはあまりにも境遇の違う人達の話なので、共感ではなく、いつか自分やその周りに来るかもしれないその時を想像しつつ、そんな中でもなんとかやっていけるのかも知れない、人間ってそんなに単純で弱いもんじゃない、なんてことを思った。
感情的で分かりやすくカタルシスを感じさせる映画が基本的には好きだが、たまにはこういう映画も良い。
日本社会を描いてくれてありがとう
韓国の南北問題を描いたレッドファミリーやフランスに根付く教養の階級社会を描いたアデルブルーは熱い色
アメリカを風刺した天才スピヴェット等。
社会の姿を切り取った名作は沢山あるのに、どういうわけか日本の社会を描いたドラマには最近出会っていなかった。
日本のいまを生きる人々の出口の見えない絶望が、橋口監督の実体験を交えてスクリーンに映し出され続ける。
この映画の舞台である日本は紛れもなく自分達が生きている社会で、登場人物達は自分達の隣人であり、自分達自身でもある。
しかしこの映画は同時にかすかな希望を納得のリアリティで提示してくれる。
橋口監督には、日本社会を描いたこんなにも良質な作品を撮ってくれた事に感謝したい。
人生ってのは筑前煮みたいなもので、この映画も、筑前煮みたいな映画でした。
人生ってのは筑前煮みたいなもので、この映画も、筑前煮みたいな映画でした。
人生の挫折とか、社会の残酷さとか、そういうものを体験してる人なら、ジワっとくると思います。
つまり万人受けする映画なんだけど、こういった煮物みたいな映画に慣れていない人にはハードルが高いと思います。
僕はこれ鬱の時に見てたらきっと号泣してましたね…。いまが辛い人に見て欲しい映画です。
冷たい熱帯魚みたいに、人生ってのはなぁ辛いんだよぉ!と言わない所が、好きです。勿論冷たい熱帯魚も大好きですが。
見てる間は退屈なんだけど、見終わると、一つ一つのシーンが、とても印象深いです。そしてあの登場人物たちにも、実際に会ってきた、そんな感じがします。
あの胡散臭いスナック アムールのおばさんや鶏のおっさん。
タバコを肺に入れないで吸う薄っぺらいおばさん。
人生に絶望している主人公の男。
元左翼で左腕吹っ飛ばしちゃった優しい目のおっさん。
橋下徹みたいに偉そうな弁護士。
調子のいい職場の後輩。
立ちションのバカカップル。
メインから脇役までみんなすごくいいです。みんな一見嫌な奴なんだけど、みんな各々辛く苦しい人生を生きています。
主人公の男は、見えない欠陥を探す仕事です。
彼はトンカチで橋の支柱を叩きながら、自分の人生が壊れているかを確認します。
支柱に大きな×を書いて、全部壊れてるよ、と言い投げます。自分の人生は壊れているんだと。
誰にも感謝されるわけでもなく、客の笑顔も見えない仕事は、辛いです。
だからこそ、先輩に、才能あるんだからさ。なんて言われると、とても救いになります。
食べて、笑えれば、それで良いんだよ。
という台詞にも、とても救われます。
先輩の言葉は、痛みを知ってる人が言える言葉だと感じました。
それは彼の態度や表情にも十分現れています。
Akeboshiの主題歌も良いです。
Usual life。映画の登場人物たちが普段の生活に戻るように、映画を見終わった観客たちに、エンドロールで「Get back to usual life」と語りかける感じです。
オリジナル版は、安倍さんのアンダーコントロールスピーチをサンプリングしています。是非聞いてみてください。
劇場を出た後、世界が少し変わって見えました。今年の邦画で一番感動しました。
良いダメ 悪いダメ タチの悪いダメ
映画の内容自体は、この手の作品の題材で使われるような出来事であり、救われないという意味では往年のATG映画のようでもある。但し、そういう映画自体が少なくなっている現在に於いては希有な作品として評価されてもいいと思う。
社会の厳しく、苦しく、絶望的ですらある事実に、否応なしに巻き込まれそして堕ちていく生活の破綻に、それでも自ら生を終わりに出来ず、藻掻き、足掻き、益々沈んでしまう負のスパイラルを人間はどうやって乗り越えるのか、否、乗り越える必要があるのか、そうやって生きるという『地獄』をやり過ごすきっかけを掴むのが、作品としての締めである。
強い感動はない、感嘆もない、静かに静かに沁みる映画である。
浅ましく、だらしない、そしていて強く逞しく過ごす人間に称賛を送っている監督の気持ちが強く刻まれているのを、ジワジワと心に入り込む。
切ない、非常に切ない、そしていて、それでも生きようよって、元全共闘の片腕を爆弾で吹き飛ばしてしまった上司の存在、その役がこの作品を言い表しているような・・・
シーンがころころ変わって初め意味分からないが、徐々に意味が分かって...
恋人たち
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