「この映画が警告してるのは「今」」コングレス未来学会議 SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画が警告してるのは「今」
変わっていてとても面白い映画だけど、ちょっと人には勧められないなー、と思った。エンタメ的にやってはいけないことをいろいろやってる。
複雑な状況や世界観を長〜い会話だけで説明しようとしてたり、起承転結がちゃんと構成できてなかったり、テーマがあっちこっちいって整理されてなかったり。
前半は、人気俳優の姿をスキャニングして、そのデータを使って3DのCGに演技させるから、もう生の俳優は要らなくなる、という話で、正直それほど目新しい話題でもない。
問題は後半で、世界中がアニメの世界になっちゃって、現実なのか幻覚なのかわからなくて不安で今上を向いてるのか下を向いてるのかわからないような、サイケなトリップにひたれる。
これって、未来のディストピアを描いているようでいて、実は現代の現実社会そのものの暗喩なんじゃないだろうか。
僕らは考えてみれば、世界をほとんど概念とか記号でしか認識してないように思う。その方が脳みそが楽だからだんだんそうなってしまうわけで、本当に世界をありのままに見ようとしたら非常にしんどい。
たぶん、風景画を描く、みたいな機会でもない限りは、見たものを見たままに認識するのは不可能なんだろう。
アニメの世界ってのは、概念と記号だけの世界だから、現代人のほとんどの人はアニメの概念化された世界に生きてるようなものだ。
この映画の中で、アニメの世界に入ってるときの不安感は半端ない。いったい現実では何が起こってるの、って思う。まるでピンぼけしたカメラのレンズを通してるみたいで、頭がぼんやりする。
でも、実は現実世界でもピンぼけした状態であって、もっと記号や概念で考える「手抜き」をしないで、世の中をありのままに見る努力をしないといけないなー、と思った。
追記
最後、主人公が残りの余生をアニメの世界で生きることを決めたあと、それまでの人生のすべてを再び自分を主人公とするアニメ作品として再体験する。
そのあと、現実では出会わなかった、ライト兄弟の飛行機に乗った息子と再会する。
これが、はたして主人公の幻想に過ぎないのか、それとも本当にアニメの世界で息子に再会できたのかが気になる。
しかし、主人公からすれば、それはどちらでも変わらないのかもしれない。この世界ではフィクションと現実の境界は曖昧で、区別する必要すらない。
また、この映画のようにアニメの世界にいなかったとしても、誰でも主観的世界に生きているのだから、他人が何を考えているのか、心と心が通じ合っているのか、というのは思い込みと想像に過ぎない。
こういう「そう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」という考え方を良しとするのか、それとも、自分がヒーローになれるわけではない、つまらない現実の世界で、世の中の無意味さを直視して生きるべきなのか。
これって、エンデの「果てしない物語」で、現実に戻ってこれなかった帝王達のことなのかもしれない。