「とにかく原発と安保」シン・ゴジラ らららさんの映画レビュー(感想・評価)
とにかく原発と安保
「原発事故の対策にあたられたみなさん本当にお疲れ様でした」
「自衛隊は日本で戦争できる、日米安保はアメリカの言いなり」
という映画だったと思います、どちらもよく取材されていて好感が持てました、ゴジラの造形が恐ろしいので子供はとにかく恐怖をおぼえてよかったのではないでしょうか
ちなみにはじめの上陸時、第二形態のゴジラは深海魚ラブカがイメージだそうですね、ラブカは地震の前兆とも言われており、2014年には駿河湾で3匹ほど発見されてニュースになっていました
映画最大の見せ場となる「ヤシオリ作戦」で活躍していたのは原発に冷却水を浴びせたポンプ車(つまりは「キリン作戦」)ですね、給水パイプをつなぐ場面を何度も見せたのが印象的でした、民間企業協力者とあったのは東京電力の現場作業員のことでしょうね、本当に命をかえりみず国を救ってくれた人々のことだと思います
ゴジラと自衛隊の戦闘、政府のリスク判断と意思決定がどんどんと甘めになっていくのはギャグのようでありながら怖かったですね…最初は「まだ人がいる」で攻撃を回避できたのが、最終的には「屋内避難を徹底」というだけで攻撃の決定を下せるという
物語の肝になる「熱核兵器を東京で使う」という判断は平成ゴジラ(1984年版ゴジラ)にも出てきますね、当時の首相は非核三原則を盾にすることで「モスクワやワシントンでも使えますか」と米ソの説得に成功しますが、今作では「彼らはここがニューヨークであっても同じ判断をするそうよ」と言っているあたりが怖いですね
(蛇足ながら最近、中国が民兵組織を率いて南シナ海で挑発行為をくりかえしているので、なんというタイミングでこの映画が上映されてしまったんだと恐ろしい思いでいます)
あとはゴジラ旧作へのオマージュがたくさん出てくるのも楽しかったですね、牧博士とか、在来線無人爆弾はスーパーXみたいなものでしょう…たぶん…
全体に政府寄りと言われるのは災害対策委員会を描いているから、これはたんなる推測ですが、テーマが右寄りで批判されやすく、プロジェクトXのようなドキュメントとしては描かれづらい東電・政府対策チームの姿を、たとえフィクションとしてでも描きたかったということなのではないかと思います
ただ全体に人間ドラマは希薄で、物語のために人間がいるというような映画ではありました、ともあれそういう映画として考えればとてもよくできているのではないかと思います
長々書いてしまいましたが傑作でした
庵野さんはエヴァンゲリオンで「心の闇」、そしてシン・ゴジラで「3.11」という社会性ある巨大なテーマを見事ヒット作にしてしまいました、新時代の天才だと感じます