あんのレビュー・感想・評価
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ささやかな そして 確かな幸せ
父親を看取り 落ち着いた頃、母と気晴らしに映画を観ようと訪れた映画館で樹木希林さんの追悼ということで「あん」を上映していた。本当は「コーヒーが冷めないうちに」を観ようと思っていたが、母が観たいというので「あん」にした。
樹木希林さんは本当に素晴らしい女優だった。思えば 樹木さんの映画作品を観るのは初めてだった。
彼女が 持て囃される(た)のは当然だと その存在感と繊細な演技力に 唸った。
惜しい。残念。まだまだ、たくさんの作品を見たかった!
樹木希林さん演じる徳江が 愛おしげに小豆に話しかけ 繊細に大切に小豆を「あん」に仕上げていく様が 優しい視線で描かれる。あんの美味しそうな甘い香りがしてきそうだ。
この物語は ハンセン病のために 一般の社会から隔離された場所に住む事を強制され、差別され生きて来て、やっと その政策が間違いと是正されたため、外に出られるようになった徳江が、その日暮らしの惰性で生きていた千太郎の人生に 味や色を与えていく…
私は ハンセン病がどうとか そういう事より 徳江の ささやかな事への喜びの姿を この映画は伝えたかったのではないかと思った。
桜を見て 愛おしげに微笑む。餡の煮える音に耳を傾け 満足げに喜ぶ。若い子と楽しげに話す。
なにより働くことを 楽しむ!
そして 徳江は言う。
「人は この世界(の美しさ)を見る(聴く)ために生まれて来たのよ」
胸が いっぱいになった…!
私は 他人のために何かしたいと思うような立派な人間では無い。せいぜい迷惑掛けないように生きている。だけど…
この世界は美しさに溢れている。だから 出来るだけ見たい!聴きたい!と思って生きて来た。わがままな生き方かもしれない。
でも 徳江のこの言葉で 肯定してもらった気がした。
人は何のために生まれて来るのか?大きな命題だ…。もし、徳江が言うように それが生まれる意味ならば、どんな 境遇にあろうとも、美しさを求めたい。
ささやかな事に喜び、感謝したい。美しい穏やかな世界を守りたい。
そう 思った。
私に世界の美しさを教えてくれたのは 亡き父だった。 映画やドライブや空を見上げる事などを通じて、教えてくれた…。
母が作る小豆のおはぎは 絶品(笑)私も千太郎のように、母から受け継がなければ!
だいぶ 個人的な想いで観てしまったから 正しい見方でないかもしれない。でも それでいい。
母も とても良かったと喜んでいた。
素敵な樹木希林さんの温かい表情と声は決して忘れない。
追記
タイトルの『あん』が餡でないのは、「あ」から始まり「ん」で終わる五十音に人の一生を擬えて付けられたものだろうか……。
弱者でございます
是枝監督とならんで演出のリアルさが優れている。会話や仕草や表情など「この人たちは自分が映画に出演していることをわかっているのだろうか?」と思えるリアリティ。どうやってカメラを意識させないようにしているのか、わからない。
年譜を見ると、びっくりするほど多作な人だが、作風からして、興行も興行成績もひかえめだと想像する。その作風を、心境の変化か、興行主の意見か、解らないが、この映画から変えた。──と思う。
かわいそうな立場やしいたげられた人でシンパシーを稼ぐ作家とは気づかなかったのだが、この映画や光にはお涙系の演出が目立った。正直なところ、リアルな演出を取ってしまえばセンスのない映画監督だと思う。
オーナーに連れられて、甥っ子がガム噛みながら「どら春」に入ってくる。一目でわかる憎まれ役。観る者の反感を煽りたい意図が見える──というより、いまどき月9にすらこんな直截的描写はない。かなり衝撃を受けた。
店長には、負目と前科があり、母を亡くしている。呑み干したカップ酒に吸い殻、落ち込む度にお酒、短絡の目立つ弱者キャラクターだった。光で同じ永瀬正敏が演じている盲のカメラマンも、しいたげられた/かわいそうな設定で、シンパシーを稼いでいる。
アートハウスの監督と見ていたが、たんに辛気臭いだけなのかもしれない。
話も、餡が変わってすぐ行列できちゃったり、鳥カゴ抱いて家出したり、徳江さんが生前に録音遺していたり、どこまでも作られた話(原作)だと思った。
一杯のかけそばで言うなら「ハンセン病」は「貧乏」のようなもの。いい話というよりうまい話だが、かつての監督作よりもてなしがよく、裾野をひろげたものの、個人的には醒めた。
ぼくたちはなにも知らなすぎる
樹木希林さんの偉大さと、差別意識のありかをあぶり出す
樹木希林さんの眼差しや声はどうしてこんなに優しいのか…。作中に出てくる吹き抜ける風や緑の景色みたいだ。神様がいて世界を作ったのなら樹木希林さんは神様に近いところにいるのではないかと思ったほど。
個人的に印象に残ったシーンをふたつ。
・「(どら春で働いた日々を思い返しながら)楽しかったぁ」と言う徳江さん(樹木さん)の表情。
店長・千太郎さんの哀しい目が気になって声をかけた、と後に徳江さんは言っていたけど「働いてみたかった」とどら春に来た時に話した言葉もきっと本当だ。
お店の店子として必要とされたり、接客したり、アイデアを出したり。
施設の中で過ごしてきた徳江さんにとっては本当に楽しかったのだろうな。そしてそこに高校生のアルバイトみたいなことすら許されなかった徳江さんやハンセン病患者たちの哀しい過去が見える。
・「よくわからないけど」
千太郎のオーナーの奥さんがハンセン病のことを話す時に言った言葉。
何気ない一言のようで、差別問題の根幹を表した言葉だと思った。だから印象に残った。
よくわからないから不安なのだ。本作でワカナがしていたみたいにちゃんと興味を持って調べれば実情は見えてくるのに。
断片的なマイナスイメージと、「よくわからないから」という不安で私たちはいとも簡単に差別したり、線を引いたり、排除したりしようとする。科学的な根拠のないイメージだけで。
そしてそれが差別されたり線を引かれた人をどれだけ哀しくさせ、あるいは窮地にすら陥れることを想像できない。
心ない噂で、大好きな職場を自ら去らざるを得なかった徳江さんのような人を生むことを知らない。
そしてそう思った瞬間それはブーメランになって自分のところに帰ってきた。もし作中で噂を聞いた私はどら焼きを買いに行かなくなったのではないか?
ワカナのようにちゃんと知ろうとすることができたか?と自分自身に問いかけてしまった。
本作を観て鼻水と共に流れまくった温かい涙の味と一緒に、私にささったブーメランの痛みはこのままにしておきたい。
あとこの映画のすごいと思ったところ。
直接的に表現せずに受け手に行間を読ませている(受け手を信用してくれているともいう)。
たとえばワカナの母親。序盤のほうにほんの少しワカナと母親の生活の様子や会話が挿入されるシーンがある(その時点では本筋には絡まない)。
そして話が進み、どら春に人が来なくなって徳江さんが去ったタイミングでワカナが千太郎に「徳江さんがハンセン病だと話した人が1人いる。(それは)お母さん」と言う。
ワカナの母がそれを誰かに噂で伝えているシーンはない。他の人たちが噂話してるシーンすらない。
でも観客は「あ、あの母はおそらく近所の人に話すのだろうな」と薄々感じる。序盤のシーンで私たちはワカナの母親のパーソナリティをある程度掴んでいるからだ。
本作はそういった説明があまりなされずカットや表情(たとえば指を触る徳江さんの指のカットで、徳江さんが自分が原因で来客が減り始めていることに気づいていることを表す)で悟らせることが多い。
わかりやすくするために説明のセリフや演出過多な作品が散見される中で、観客を信じてくれる監督やスタッフの姿勢に感動してしまった。
良い映画だった。千太郎役の永瀬正敏さんも素敵ね…!
あとどら焼き食べたくなった。徳江さんの粒あんが入ったどら焼き。
久しぶりに。
レジェンドの揃い踏み
樹木希林と言えば富士フイルムのCM。
「綺麗な方はより綺麗に、そうでない方はそれなりに」
あの頃から、別に綺麗じゃないけどそれなりに見てしまう女優だった。
「日日是好日」を観てから、あの味のある演技をもっと観たい、というか「久しぶりに会ったおばあちゃんの話をもっと聞きたい」みたいな感覚で、配信サービスのAIに勧められるまま鑑賞。
主演の永瀬正敏にも久しぶりに会って、そういやこの元嫁も含めて今はどうしてるのかとか雑念が湧いたが、それをやはり凌駕していた樹木希林。今回はその役のバックボーンも相まって、彼女の軽さを感じる演技がより重く響く。
ハンセン病って知らない人も増えてる様な。学校の授業で少しやった覚えはあるけど、今でも教えてるのかな。
永瀬と樹木希林の孫が訪れた先に、
まさかの市原悦子。
そしてそのロケ地は東村山。
志村けんの出身地ですね。
郷愁を煽る要素が多すぎて、満足感半端ない。
桜が多く出てくるので、今観るには色んな意味で丁度良いです。
「あん」は中身。中身が大事。
みてくれなんてどうでもいい。
常日頃そう思う、中身の無い自分。
原作と
原作を読んで、ハンセン病資料館に行き、映画を観た。より深く作品世界に入り込むなら、原作をお薦めする。そもそも難しいテーマを扱っている長編小説を2時間の尺で収めるには取捨選択をせざるを得ない。原作では丁寧に描かれている経緯が、映画では所々省かれており、細切れのように場面が飛ぶ印象がある。
それでも映画の素晴らしいのは、それを補って余りある視覚情報である。舞い散る桜吹雪、香り立つようなあんの煮炊きの場面、療養園の風景は強く訴えかけてくる。樹木希林の演技に注目が集まるが、永瀬正敏の演技も素晴らしかった。あまり演技派という印象はないが、主人公の朴訥として、疲れ切り、どこか流れに流されてしまうところを見事に演じていた。個人的にはラストシーンは取ってつけたようで違和感を感じたが。
よい映画の時間だった。
生まれてきた意味。生きている意味。魂の浄化。
心の中に巣くう恐怖。
感染病に対する、手っ取り早い処置・隔離。
特効薬が開発される前まで死病だった結核。
赤痢・コレラ・天然痘…。
身近に感染者が確認されれば、保健所に呼び出され、検査させられ、感染し、他への感染可能性があるとなれば、隔離され、関わる場所が消毒される。
インフルエンザ他でも、出席停止・出勤停止となり、”家”に隔離されて、感染拡大を防ぐ。
感染方法が明確になる前のエイズ・HIV。
そして、今コロナ・ウィルス…。
命を守りたい。死への恐怖が、行動を激化させる。
加えて、ハンセン病は、身体の変化がその恐怖に油を注ぐ。
そんな、種の保存として当たり前の思いと、
人として生きることへの思い、
そしてこれだけ皆がググって情報を得られる時代にも関わらずの無知・偏見
がベースとなって、物語が展開していく。
ある事情から、強制的に生き方を定められてしまった徳江さん。
ある事情から、自分で自分を籠の中に押し込めている千太郎。
ある事情から、”自由”なはずなのに、”自由”になりきれないワカナ。
この3人がより糸のようによりあって、物語が進む。
亡くした自分の子を千太郎に投影する徳江さん。
亡くした母を徳江さんに投影する千太郎。
失くしかけている家族を、徳江さんと仙太郎に見出しているワカナ。
本人たちも自覚していないふんわりとした疑似家族。
人生は悪いこと、思いもよらぬこと、思い通りにならぬことだらけ。
生まれてくる家族も選べないし、罹患する病も選べないし(生活習慣病を除く)、良かれと思ってしたことが仇になることもある。
それでも時折、遭遇する楽しいこと・すてきなこと。
手間暇かけて、面倒な積み重ねの果てに作り出せる美味しい時。
はまってしまった環境の中での、それぞれの思い・ふるまい・日々の生活。
そんな営みを、世間の人はわかってくれなくても、お天道様が、お月様が、木々が、風が、畑からのお客様(農作物)が見ていてくれる。
徳江さんの作るあんのようになれればいいけれど、何にもなれなくっても、そこにいるだけでいい。
映画は、確かにハンセン病患者を扱ったものだけれど、
それよりも、千太郎のいら立ち・号泣とともに、魂が洗われていくような気になってくる。
これだけでも、号泣なのに、
市原悦子さんが出てきただけで、さらに涙が出てきた。
二大女優の競演。
もっと見ていたかった。
合掌。
原作未読。
人生、いろいろね
言葉や樹々のざわめきや鳥の鳴き声、全てから存在感を感じて、とても静かでおだやかな映画なのにどんな賑やかな映画より満足感を得られました。
「ねぇてんちょさん、私達はこの世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすればなにかになれなくても、私達は、私達には生きる意味があるのよ。」
徳江さんの色々から、てんちょさんやワカナちゃんやマービーが救われたように、立派ななにかにならなくてはいけない、と思い込んで日々もがいて、なににもなれず籠の中にいた私もちょっぴり救われてしまった。
あん、はてんちょさんで、ワカナちゃんで、徳江さんで、私達、なのかなあ。
たくさん映画を観ていて、時々、この映画は心がなくなりそうな時、繰り返し繰り返し観たいと思う映画に出会うのですがこの映画はそのひとつになりました。
徳江さんに出会えてよかった。
樹木希林さんの小さな動きやことばの発し方、涙の流し方まで全てがだいすき。
あれほんとに演技なのか、、?とあとで思い出したらなんか笑っちゃう。
この映画を観て樹木希林さんの大ファンになりました。
もうこんな素晴らしい女優さんがこの世にいないのかと思うと寂しいなあ。万引き家族、日日是好日の希林さんもとてもすきでした。
徳江さんの「がんばりなさいよぉ〜」が耳にずっと残っていてうれしい。
この映画に20代半ばで出会えてよかった。
今出会えてよかったなあ。
人としての生き方。
先日テレビで映画「あん」の放送がありました。
ゆっくり1人の時間に観ようと録画をし今日ひとりで見ていました。
人と人との繋がりが 善きも悪きも影響し いろいろな人間模様が見れました。
偏見という人の見方により 無意識のうちに 傷つけ傷つけられたり
喜びや悲しみの深さを感じました。
樹木希林さんの想いがとても強く感じました。
共演されているお孫さんの表情がとても愛溢れていて
心配そうに演じるのが 真実の愛を感じました。
お亡くなりになり 樹木希林さんの存在がとてもとても強く感じました。
病気と闘いながら 生と死 を演じる姿は
これからも映像や残された声、言葉により 蘇ってきます。
小さい頃に見たドラマの「ジューリー」がとても懐かしく思えます。
樹木希林様 感動をありがとうございました。
本当に温まる映画でした。大好きです。映画館で観たかった。 状況は違...
本当に温まる映画でした。大好きです。映画館で観たかった。
状況は違えど、それぞれがカゴの中のカナリアのようにとらわれてきた人たち。樹木希林さん演じる徳江さんもその一人でしたが、カゴから出てきてやりたいことをやるように。その過程で、主人公たちのその閉じた心を柔らかくほぐしていってくれます。
全員の演技が本当に素晴らしかった。ストーリーのゆったりとしたテンポも心地よかったです。誰も怒鳴ったりしない映画って心臓に優しい・・。
ちょうど数日前、お正月に小豆を炊いたところでした。たまにしか作らないこともあり、なかなか満足な仕上がりにはならないのですが、この映画を見て、そうか小豆の声を聞くのか、とはっとしました。次はもっと気持ちを込めて作ってみたい。でもほんと、乾燥した状態のあずきの一粒って、ツヤツヤしていて美しく、いつもうっとりします。
見てよかった
すごい映画でした
樹木さんは満点
隔離からの解放
本編を見るまでは、どら焼き屋さんの話かと思っていました。ところが、それだけではなく差別→偏見→隔離
そして、解放というかなり濃い内容でした。
ハンセン病患者はお墓を作ることも許されない、衝撃の内容でした。酷いかも知れないけど、浅田美代子のような反応が世間の代表なのでしょうね。
料理人を目指していたが、レストランでの修行が辛くて逃げ出した甥っ子の為に店を改装してお好み焼きとどら焼き屋にしようと提案したり、身内には甘々なのに、障害を持った他人には冷たい。
コレが世間の普通の対応かと寂しくなりました。
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