「意欲的で重厚な人間ドラマだが・・・・・」怒り みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
意欲的で重厚な人間ドラマだが・・・・・
本作は、東京の郊外で発生した夫婦殺人事件の容疑者として浮上した、東京、千葉、沖縄在住の3人容疑者を巡る3つの物語を同時進行させるという斬新な手法で、真犯人探しというよりは、容疑者を通して、人を信じることの難しさ、危うさを問う重厚な人間ドラマである。
3つの物語は、夫々、特徴があり、それなりに面白いが、互いの関連性はなく独立している。故に、同時進行の仕方に苦戦している。作り手は作品コンセプトに基づいて、やっているのだろうが、残念ながら、なんの脈略もなく物語が次々に切り替わっていくので、夫々の物語が途切れ途切れになり、密度が薄まって、散漫になっている感が強い。夫々の物語の完成度にもバラツキがある。
最も完成度が高いのは、千葉編だろう。容疑者(松山ケンイチ)をアルバイトとして雇っている男(渡辺謙)の長女(宮崎あおい)が東京で傷付いて帰省し、容疑者と次第に親密になり、同棲を始めるが・・・。容疑者の潔白を懸命に信じようとする長女、長女の幸せを願う父親の心情には自然に感情移入ができ、胸を打つ。宮崎あおいは、今までにない役処ではあるが、新境地を開いた感のある出色の演技で、傷心の長女の心情を見事に演じている。渡辺謙も流石の演技で、父親として、長女の幸せを祈りながらも、容疑者を信じる気持ちの揺れを見事に演じている。松山ケンイチの表情、特に目の演技も素晴らしい。過去を背負ってワケありで生きていることを眼付だけで演じている。怪しさ、不気味さ十分である。短編作品として成り立つレベルの完成度である。
それに対して、東京編では、容疑者(綾野剛)と優馬(妻夫木聡)との関係性が主題であるような物語になっている。綾野剛は容疑者というよりは不遇な人生を暗示させる演技に終始している。真犯人ではないかという怪しさ、不気味さ、怒りというよりは、不遇であるが故の優しさが目立つ。沖縄編では、基地があるが故の沖縄の悲劇による人間の怒りがクローズアップされている。しかし、肝心の容疑者(森山未來)は、得体の知れない不気味さは十分であるが、人間像が不透明過ぎで心情が見えない。演者の絶叫演技も気になって、感情移入できない。
東京編、千葉編、沖縄編の3つの物語を紡いで、人間を信じることの難しさ、危うさを炙り出そうとする作品の意図は理解できるし、俳優陣の演技も素晴らしかったが、3つの物語の同時進行という手法の難易度は予想以上に高く、未完の大器で終わってしまった。但し、無難な従来手法の繰り返しでは、映画は進化しない。今後も、斬新な手法の作品の登場を期待したい。
共感ありがとうございます。
みかずきさんのレビューで、疑問点が挙げられていて、
それでちょっと考えてしまいました。
〉怒りという題名の意味する点が今ひとつはっきりせずに、
みかずきさんがご指摘の、
〉人を信じることの難しさ・・・
そちらの方が明確に見える映画でしたね。
他の方のレビューで、納得したのは、
渡辺謙や宮崎あおいそして妻夫木聡が、
信じてあげれなかった自分に怒っている・・・
その指摘になる程と思いました。
確かに場面の切り替えが多すぎて、
カタルシスを感じるのが難しかったです。
あそこまで細かく場面転換する意図が?
でも原作がその通りだとのことです。
「オーシャンズ8」にも共感ありがとうございます。
確かに明日への元気の出る暗すぎないラストがいいですね。