「全編クライマックスの凄い映画」怒り 秋さんの映画レビュー(感想・評価)
全編クライマックスの凄い映画
陰湿な話しは苦手なんですけど、あまりにも評判が良かったので思いきって観てみたら…
本当に良い映画でした。
たった一枚の写真がそれぞれの場所で関わった人たちをかき乱していく。
蓋をしていた傷口を、諦めていた筈の幸せを、愛おしいしあわせな時間を、信じる気持ちを、人の心の中にある大切なものをかき乱し葛藤させ追い込んでいく。
信じることが出来なかった自分に対する怒り。
信じていたが故に許せない相手に対する怒り。
誰とも共有できない痛みに対する怒り。
様々な怒りを、時に切なく、時に息苦しく、観る人の心に叩きつけてきます。
人が人を愛すること、信じることの根拠がいかに不確かで脆弱なものなのかを思い知らされます。
大切な人やものを守る気持ちは、自分自身を守る気持ちを遥かに凌駕してしまう。
そして守りきれなかった時に襲われる無力感や絶望感、守れなかった自分自身に対する怒りは人を狂気に走らせてしまうこともある。
激しく争い、競争し、奪い合う世の中だからこそ、今一度立ち止まり考えなければいけないのかもしれません。
沖縄の米軍基地、マイノリティ、閉鎖的な村社会といった、現実に噴出し解決の糸口すら見つかっていない問題に深く鋭く斬りこみつつ、重くなりがちなテーマを、全編クライマックスとも言うべき最初から最後まで張りつめた緊迫感のある演出で2時間22分という上映時間を30分ぐらいにしか感じさせない凄い映画でした。
観終わった後は暫く言葉が見つからず、場内が明るくなっても席を立つ事が出来なかったです。
今このレビューを書いて湧きあがってきたのは『怒り』のタイトルとは違って『受け止める』そして自分を強く信じ『這い上がる』って気持ちです。
この映画が一番素晴らしいのは、それでも前を向いて生きて行く勇気をくれるからなのかもしれません。