「それぞれの正義」怒り スパイダーマンさんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの正義
吉田修一の怒りが映画化すると聞いて、キャストが本当に僕の好みだったのでこれは原作を読んでから映画を観ようと思い、予想通り原作も素晴らしかったので、かなり期待値が高い状態で映画を鑑賞しました。
この映画、、とにかくキャストの演技が良かったのだと思います。あれだけのメンバーの中で新米の佐久本宝くんを始め、広瀬すずちゃんも本当に頑張っていたし、正直監督も彼らの演技に頼っていたところはあったと思います。小説でしか描かれない登場人物の些細な感情の変化も、きちんと伝わってきました。
音楽を坂本龍一が担当しているということでそこも抜け目ないなと楽しみにしていたのですが、肝心なシーンでの俳優たちの演技を殺さないように、控えめな演出であったのかなと思いました。
この作品のタイトル、”怒り”について考えてみたのですが、まず犯人である山神一也が壁に書いていた怒という文字、小説でも彼はかなりクレイジーな人種としてしか描かれていなかったため、その怒りという感情になにか人間的な理由はないのかなと思いました。もっと理不尽な、潜在的な怒り。
それにしても映画では彼の狂気がまざまざと描かれていましたね、、殺されるシーンもあんなにしぶといとは、、。笑
そして、愛する人を信じられなかったことを深く悔いる愛子と優馬、、田代が犯人ではなかったとき愛子が泣くシーンがありましたが、宮崎あおいの演技が凄すぎて彼女の気持ちが痛烈に伝わってきました。娘にだらしなかった父親の、情けない自己に対する怒り。
また妻夫木聡の演技がいい!!あの直人の真実を聞かされ店から出て泣くシーン、、彼の気持ちがどれだけわかってどれだけ泣けたか。彼の怒りも愛子の父親と似ているような気がしました。
そして、映画のラストシーンは、泉が海で叫ぶシーンでした。彼女は辰也に途轍もなく申し訳なさを感じていながら、自分の真実を世間に知られるのがやはり嫌であるという葛藤を抱えていましたが、映画だけを見て彼女の表情からそれを汲み取れたなら凄いと思いました。どうしようもない現実に打ちのめされた泉と辰也2人の、やるせない怒り。
全体の評価として、星4.5にした理由は、3つの物語を2時間半に収め切るのはやはり無理があるのかなぁと感じてしまったからです。ものすごくうまく製作されていたのですが、小説を読んでいると、その感は否めなかったかも。
ただ怒りという、映画は、それぞれの俳優が本当にこだわりを持って登場人物を演じているという感じがして、良かったです。それが原作だけでなく、映画まで見る意味だと思いました。
ある意味でいい映画でした。映画終わったあとは泣いて目が腫れぼったかったです。