「胸が痛い…」怒り とみしゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
胸が痛い…
とある殺人事件の容疑者と思われる3人の男が、日本の各地に現れる。
素性の知れない彼らに出会い、心惹かれていく人々。
この人は殺人者なのか? 疑いと、それでも信じたいという思いの狭間で苦悩する。
森山未來、広瀬すずの沖縄編が、一番胸に刺さった。
朗らかな役柄の多い広瀬すずだけれども、今回は米兵にレイプされるという、とてつもない傷を負わされる少女、泉を演じる。
自分が酔っ払ったばかりに、憎からず思っている泉を被害者にしてしまった少年、辰哉。
その辰哉の苦悩を共に分かち合う田中。
素性は知れないものの、2人の兄貴分として大人の振る舞いをする田中だけれども、しかし…
この沖縄編は、3人がそれぞれ質の異なる怒りを抱えている。
田中の抱える怒りは、明らかに異質。
同情するのはかなり難しい。
泉の抱える怒りは、あまりにも悲しい。
彼女がレイプされたことは、ただただ不運としか言いようがない。
彼女には何の落ち度もないからだ。
辰哉はひたすらに自分を責める。
自分が酔って、前後不覚になったせいで、泉を被害者にしてしまった。
彼は生涯自分を責め続けるだろう。
誰からも赦しを与えられることもなく。
泉がレイプされるシーンは、本当に辛かった。
あんなにも辛い涙を映画館で流したことはなかった。
作り物だと分かっていても、あまりにも理不尽で残酷な暴力を目の当たりにして、平常心ではいられなかった。
東京編、千葉編も良かった。
宮崎あおい=愛子は、まっとうに生きられない自分と、そんな自分が過ごすであろう人生を受け入れつつ、それでもなお、松山ケンイチ=哲也と出会い、「こんな自分でも幸せになりたい」と願う。
娘の愛子を愛しつつも、「こんな娘が幸せになれるわけがない」と諦めも感じている父、洋平=渡辺謙。
ゲイの優馬=妻夫木聡は、ゲイが集う場所で直人=綾野剛と出会い、自分の家に住まわせる。
最初のうちは、おそらくはセックスフレンドとして。
しかし、穏やかで心優しい直人に、深い愛情を抱いていくようになる。
だからこそ、とあるカフェで見かけた見ず知らずの女性と談笑する直人の姿に、強烈な嫉妬と絶望を感じたのだろう。
3人それぞれが別々のきっかけにより、深い関わりを持っていたはずの人の前から姿を消す。
この3人の中に、殺人犯がいるのだろうか?
見終わって、深い溜息が出た。
人を信じるとは、なんと難しいことなのだろう。
人を疑うとは、なんとたやすいことなのか。
自分は、いったい何を信じているのだろうか。
何に怒りを感じているのだろうか。
その怒りの矛先は、どこに向かっているのだろうか。
信じることができない自分自身なのか、信頼を裏切った大切な人なのだろうか。
とても丁寧に作られた、しかし猛烈な熱量を感じる映画だった。
だからこそ、何度も繰り返し観ようという気が起きない。
今でも、腹にズシリと何かが残っている感じがする。
自分のことは、自分自身が一番分かっていないように思える。
知り合った人の数だけ、「本当の自分」が分身のように生まれている。
そんな風に思ったりもする。
僕は誰を信じているだろうか。
誰が僕を信じてくれているのだろうか。
改めて、大切な人といろいろ語りたくなった。