風に立つライオン : インタビュー
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大沢たかお&三池崇史、「風に立つライオン」に込めたあふれんばかりの熱い思い
大きな使命を背負い、相当な覚悟を持って大願を成就させた。「風に立つライオン」に主演し、企画としても名を連ねた大沢たかお。さだまさしの楽曲に魅せられ、映像化のために奔走して足掛け8年。「藁の楯」(2013)に続き三池崇史監督とタッグを組み、アフリカの辺境で医療活動に人生をささげた医師・島田航一郎として生き抜いた。そのあふれんばかりの熱い思いは、言葉の端々にほとばしっていた。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)
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「三池監督の『風に立つライオン』に参加できたことが良かった。航一郎役を、自分ではない人が演じていたら多分、嫉妬していたと思います。だから、自分を選んでいただいて感謝しています。本当にこの映画に携われたことがうれしかった。自分が出ている、出ていないにかかわらず素晴らしい作品だと思います。三池監督って本当にすごいと感じました」
ひと言ひと言に実感がこもる。慎重に的確な表現を選びながら「風に立つライオン」に懸けた思いを伝えようとする真摯な姿勢。それだけで大沢の誠実な人柄が垣間見える。
そもそもの発端は、さだが1987年に発表した同名楽曲。ケニアで国際医療活動をする実在の医師をモデルに、日本に残した恋人にあてた手紙の形式で歌詞がつづられている世界観に魅了されたという。
さだの小説を映画化した「解夏」、「眉山」に出演し親交があったため直談判したが、当初は芳しい返事がもらえなかった。それでも、ドラマ「アフリカの蹄」やドキュメンタリーでアフリカを訪れた体験を話すなど粘り強く交渉。そして東日本大震災をきっかけに、さだが2013年「命のバトンをつなぐ物語」として小説を執筆したことから、映画の企画が動き始めた。メガホンを託したのは“行列のできる映画監督”三池監督だ。
「皆、監督と仕事がしたいから、順番を待たなきゃいけないんですよ。皆、並んで待っているから僕たちも並びましょうって(笑)。本当にそんな感じです」
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その三池監督はジャンル不問だが、ここまで直球の人間ドラマは記憶にない。大きな挑戦であったことは想像に難くないが、やはり監督として意気に感じるところはあったはずだ。
「自分は映画を作るのが仕事なので、その中に自分がこういうものにしたいというのはあまり関係ないんです。物語よりもそこに登場する人間たちが映画のトーンを作っていくと思うんですよ。だから僕は逆に、さださんOKなの?って。やってみないと分からないし、自己弁護して大丈夫ですからやらせてくださいとは言いにくいものなので。聞くと、最初は戸惑っていたみたい(笑)」
大沢も晴れて航一郎役に決定。ケニア・ナクルの長崎大学熱帯医学研究所に派遣され、半年後、スーダンとの国境近くにある赤十字戦傷病院へ移る。そこは内戦で負傷した年端もいかない少年兵が次々に運ばれてくる苛烈な現場だった。実際、約1カ月のケニア・ロケでは、航一郎として“生きる”ことに専念した。
「とにかく同じ場所に立っていると、取り繕っていたものがどんどんはがれてむき出しの自分があらわになっていくんです。決して楽ではないけれど、そういうことでもない限りこの作品に参加する資格はないなという感じがしていたので、こうじゃなきゃいけないということはほとんど考えず、ひたすら現場や作品の中で生きることだけを考えていました」
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航一郎に最初は反発しながら次第に心を開いていくンドゥングをはじめ、患者となる少年たちはすべて現地でのオーディションで選んだ。それぞれに表情が豊かで、実にのびのびとした演技を見せている。三池監督は満足げな表情で、大沢も大いに刺激を受けた様子だ。
三池「芝居を始めたら当然下手だし緊張もしているけれど、『ほら、いた』という感触を大事にした。根拠は何もないけれど、話を聞く時の目がしっかりしていて理解をしてくれる。演出はしているけれど、実際は共演者がお互いに引き出しあっている。面と向かっている相手を見るわけですから、そこでシンクロできるヤツってやっぱりいるんですよ。それがこの作品の強さというか運命だと思いますよ」
大沢「彼らは生きていることにむき出しの存在なので、自分はウソをついていないか自問自答しました。ちゃんと対じしないと同じ世界にはいられないと思って。何が飛び出してくるのか分からない子たちでしたので」
過酷な現実を目の当たりにすることによって、航一郎はアフリカの大地に骨を埋める意志を固める。移動中はさだの楽曲を聴き、宿舎では小説を読んで臨んでいた大沢も撮影が進むにつれて役と同化していく感覚を覚えたという。
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「なぜ最後までそこにいようとしたのか、理屈では分かっていたけれど分かっていなかったんですよね。ぼっかり空白だったものが、自分の最後の10日間くらいで決してきれいごとではなく格好良くもない航一郎が見えてきた時に、突き進んでいく方向はいいんだと思えた瞬間がありました。途中まで気にはなっていたけれど踏み込まないでやっていた部分があって、その疑問がだんだん浮き上がってきた時に、男としてあこがれも尊敬もあったと同時に、厳しい状況に進んじゃったなって感じてすごく切ない気持ちになりましたね」
そして、完成した映画を観客につなぐ最大の使命にますます身を引き締める。
「最後はお客さんに気持ち良くバトンを渡さなければいけないので、自分のできることを必死にやっている日々です。とにかく一番いい状態でバトンを渡すことだけを考えています」
そんな大沢を、三池監督は「ストイックでスマートな肉食獣」と評する。
「そのストイックさが島田航一郎とすごくリンクして、もうこの映画的には島田航一郎でしかないんですよ。この作品が押しつけがましくなく、希望も見えてなおかついろんなことを感じることができるのは、まさに大沢さんとキャラクターがどこかでリンクしているからだと思いますね」
アフリカの大地で培われた荘厳な日本人の生きざまは、間違いなく日本でも感動の風を吹き渡らせてくれるだろう。