「それでも、息子なんだ」君が生きた証 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
それでも、息子なんだ
悲劇と喪失、出会いと再スタート、音楽と親子愛…。
描かれているのはありふれていて、話も他愛ないかもしれないが、ツボを抑え心地よく。
名バイプレイヤー、ウィリアム・H・メイシー初監督によるヒューマン・ドラマの佳作。
やり手広告マンのサム。
ある日突然大学で起きた銃乱射事件で、息子のジョシュを亡くす…。
普遍的であっても、銃乱射事件が背景になっているのがアメリカらしい。アメリカ社会が抱える“闇”であり“病”。
留まらぬ悲劇により今も悲しみ苦しんでいる人は居る。本作の主人公もその一人。
2年が経ち、まるで世捨て人のように湖のボートハウスで荒んだ生活を送るサム。
そんなある日、息子の遺品の中から、息子が遺した自作曲の歌を知る。
以来、仕事中も息子の歌を聞くようになる。
自分で弾き、歌ってみるようにもなる。
そしてある日、ライブハウスで歌ってみる。
すると、一人の青年クエンティンが歌にベタ惚れし、一緒にバンドを組んで欲しいと誘われ…。
無論最初は相手にもしないが、少々しつこい人懐っこさに根負け。
思わぬ歳の差バンドの結成。
サム役ビリー・クラダップとクエンティン役故アントン・イェルチンのやり取りもユーモラス。
言うまでもなく、2人の歌声は聞きモノ。
息子の歌が今のサムの心情に重なる点あり。
それは人懐っこいが実は人付き合いが下手なクエンティンにとっても。
息子がもたらしてくれたような、息子の遺曲がきっかけとなって始まった出会いと新たな世界…。
息子の歌は、俺が歌い継ぐ…。
これだけだったら、良作ではあるが控え目に採点3・5であったろう。
しかし、まさかの衝撃の真実が…!
思えば、不審なシーンが幾つかあった。
序盤、マスコミにやたらと付きまとわれるサム。被害者遺族は他にも居るのに…。
久し振りに会った息子の元カノの辛辣な言葉。
サムは歌が息子の歌である事を公にしない。
中盤の息子の墓参りで、驚きと共に、全てが明かされる。
つまり、息子は“被害者”ではなく…。
途端に、オーソドックスと思っていた話に深みが増した。
と同時に、サム同様、苦渋の気持ちに。
確かに息子が犯した罪は絶対に許されない。擁護も出来ない。
被害者遺族たちの悲しみ、憤りは100%同情に値する。
でもそれは、サムとて同じ。
だって、愛していた息子が…。
一応、父子仲は良好だった筈。
が、ひょっとしたら…。
気付いてやれなかったのかもしれない。
そう思うと、息子だけじゃなく、親である自分にも責任が…。
クエンティンも真実を知る。
さすがに同様は隠せない。いやズバリ、ショック。
自分が惚れた歌を作曲したのは…。
だけど、息子の歌が父を、一人の若者の心を掴み、突き動かした事は事実。
“犯罪者”が息子の全てではない。
だってこんなにも、心に響く歌を作ったのだから…。
ラスト、父は息子の歌である事を公表し、歌う。
改めて聞くと、染み入る。
2重の苦悩と、
それでも、息子なんだ。