「考えさせられる音楽映画」君が生きた証 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
考えさせられる音楽映画
息子を亡くしたために作った歌といえば、すぎに思い出すのがエリック・クラプトンの「Tears In Heaven」だけど、この歌を思い出しながら観てみた。大学での銃乱射事件により息子が亡くなったという話で、2年後には遺品から彼の遺した曲が見つかり、父親が自らギターを手に取り歌い継ぐというもの。
仕事でも成功していたが、今ではペンキ塗りの仕事をして、気軽なボート暮らし。飛び入り参加自由のライブハウス“トリル・タバーン”で歌ったことがきっかけで、聴いていた21歳の若者クエンティンが一緒にフォーク・デュオを始める。やがてベーシスト、ドラマーが加わり、本格的なバンドとして着々と力をつけていく。
バンドのメンバーはもちろん、ライブハウスでファンになっていく人たちがが過去の事件を知らず、騙されていた展開になるのだが、この映画を見ている者までもが騙されていることになるトリッキーな作品でもあった。息子ジョシュアはどう考えても銃乱射の犠牲者だろうと思い込んでいるのだが、実は加害者側だったのだ。わかってみると、ボートからの放尿とか奇行とも思える酔っ払いサムの行動にも納得がいく。特にボートレースが開かれる中、舳先にギターアンプをくくりつけて、大音響のギターを弾いて、暴れまわるところなんて『マッドマックス怒りのデス・ロード』をも予感させるシーンだ。
バンド経験者だと共感できるシーンはいっぱいある。バンドのみんなが徐々に一つの音楽にまとめていく過程、そしてそれを聴いてくれる客、ひとつひとつが皆の心に繋がっていくのは素晴らしいことです。サムの息子についてバレてしまってからは、良い曲であっても演奏できなくなる辛さもわかる。誰も責めることなんてできない・・・。銃規制の甘いアメリカというテーマも考えさせられるし、音楽によって心が繋がっていても不条理な事件が起きると思うと悲しくなる。
楽器屋のローレンス・フィッシュバーンやライブハウスの店長ウィリアム・H・メイシーも印象に残るが、若くして亡くなったクエンティン役のアントン・イェルチンがとても良かった。