「トイストーリーが辿り着いた、自身の拘束から自由になる素晴らしいストーリー」トイ・ストーリー4 たかはしさんの映画レビュー(感想・評価)
トイストーリーが辿り着いた、自身の拘束から自由になる素晴らしいストーリー
トイストーリー好きの友達から評価が悪いと聞いていた。どんな内容だろうと軽い気持ちで見始めたら、どんどん引き込まれていき、最後は何とも言えない感動で胸がいっぱいになった。私個人としては悲しい結末ではなかった。なぜなら役職や他者からの期待に縛られていたウッディが初めて自分の意思を持ち、自分の人生の幸せについて決断した内容だったからだ。
今までのウッディの行動理由は「アンディのため」「仲間のため」「ボニーのため」であった。常に「相手のため、自分が守り、幸せにしてあげなくてはいけない」という思いに縛られていた。それは確かに素晴らしい美徳的行動ではあるが、ウッディは「自分の幸せ」からいつも目を背けてきた。「他者に必要とされ役に立つ自分」に囚われ、1では嫉妬心からバズへ敵意を向けてしまい、2では同情心や自信のなさから博物館へ寄贈されそうになり、3では使命感から命をかけて仲間と一緒にいようとした。ある意味、全てウッディが巻き起こした物語といえる。全てハッピーエンドで終わったが、他者の存在に振り回されるウッディは相手が変わればコロコロと信念が変わってしまう優柔不断な不安症でもあった。しかし4では、自分の役目からの開放が待っている。今までずっと「誰かのため」を言い訳に生きてきたウッディが、これからは自分で決断した人生を生きる。もう「誰かのため」という言い訳は出来ない。「俺が自分で選んだ道だから」とどんな人生も受け入れなくてはいけない。きっと楽しいだけではなく困難な道だろう。しかし、私はそんな物語にとても光を感じた。作中でウッディはよくイライラしている。それは「自分に与えられた使命を貫くこと」への不安と焦りと責任の重さからだろう。しかし、これからは違う。ウッディは全ての決断を自分の好き嫌いで判断し生きていくのだ。自分の人生に必要なものを取捨選択して生きていく。その一つがボーなのだ。彼の人生に彼女が必要だと彼が決めた。そしてそれを、多くの友人たちが祝福してくれた。こんなに嬉しく尊く幸福なことがあるだろうか。あの時ボーを選ばなかったら、ウッディは最後の時を迎える時にボーへの後悔を持つのではないだろうか。あの時、彼女を選べていれば…彼女はこの世で唯一無二の存在であったのに、と。
アンディに選ばれ、ボニーに選ばれた彼が最後に辿り着いたのは、「自分が選ぶ側になる」ということだった。捨てられたらどうしようと他者への心配をしていた彼が「自分の好きなものを愛する」側へいったのだ。バズがジェシーを愛したように、ポテト夫妻が愛し合うように。「自分の好きな人を自分で選び向き合った」ことに、私はとても強く感動した。「みんながいたから選べなかった」のではない。みんなは快く送り出してくれた。なぜならそれがウッディにとっての幸せだと誰もが分かったから。私はラブストーリーが好きなわけではない。恋愛に対して冷めている。そんな私の心を動かしたのは「好きなものを好き」と言える姿勢である。周りの目を気にしたり、立場を気にして自由に動けない私に、ウッディは確かに背中を押してくれたのだ。俺がついてるぜ、だから、大丈夫。自分の好きな道を選ぶんだ、と。
4が日本で不評なのも分かる。特に「ずっと一緒」という3の終わり方から見れば、「一人別の道をいく」というのは一種の裏切りのように感じることもあるかもしれない。しかし人は、価値観が変わる生き物だ。お気に入りや好きなものも変わるし、子どもの頃は狭い世界でしか動けないが、大きくなるにつれて視野も行動範囲も広まっていく。親や身近な人の価値観を真に受け信じていたことが、ある日ガラッと変わることもある。1で、任務などなく自分がただの玩具だと気づいたバズのように。バズは同じバズからすれば裏切りものなのかもしれない。2では反逆者呼ばわりされていた。それはそれで真実なのだと思う。人の価値観は無限大でどれも悪いことではないのだと思う。
私は、なんとなく、トイストーリーがこれで終わるはずがないという予感を持っている。ウッディは、そうは言っても優柔不断なキャラクターだ。続編が出ても良い。ボーとの冒険談でも良いし、ボーと別れても良い。思ってたのと違ったとか、思いのほか気が合わなかった、とか。上手いことだけの人生ではないリアルな離婚、シングルーファザー的視点な物語でも良いし、ジェンダーレスの風潮からBLになっても良い、まさかの人間vsおもちゃ戦争での闇落ちでも良い。トイストーリーの続編は無限大だと思う。どんなストーリーがはじまってもおかしくない。そうやってまた視聴者に、新しい価値観、新しい思想、自由への後押しを、ピクサーにしてほしい。
たかはしさんのお考えを支持させて頂きます。心から同感致します。素晴らしい文章力に感動致しました。この映画に関して「結局友情より女を選ぶのか」と誤読されてることが多いと思います。「恋愛ものにされた」とか友情より女を取ったとか、そういうことじゃない。一言一句に共感致しました。