「生きて活かす。」トイレのピエタ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
生きて活かす。
野田洋次郎という人を今作で初めて知ったのだったが、
昔勤めていた会社のお兄ちゃんに顔がソックリで驚いた
(もちろん別人)。劇場の予告では何度も観ていたんだけど、
なかなか時間が合わず、終了ギリギリで観ることができた。
手塚治虫の病床日記に着想を得たオリジナルストーリーと
いうことだが、確かに余命宣告などされたら誰でも戸惑う。
これからの闘病が余命という名のもと、例えば夢や将来や
これから訪れるべき人生が「死」だなんて想像すらできない。
主人公は窓拭きアルバイトの現場で突然倒れる。検査を
受けた病院で居合わせた女子高生に声をかけ一緒に結果を
聞くと、末期の胃がんで余命三カ月と告げられる。呆然…
美大を出て画家になる夢を失って、今やアルバイト生活。
当時付き合っていた彼女は、偶然窓拭きをしていたビルで
個展準備の真っ最中だった。悪いことってのは重なるもの。
しかし観ていてこの主人公の身勝手さとクールを気取った
無関心な態度には、あー嫌だこんな男は。と最初は思った。
彼を叱咤激励(というかほぼ脅し^^;)する女子高生・真衣は
死期の迫った男の気持ちを無視して責め寄ってくるのだが、
元気有り余る彼女も実は辛い現実を抱えているという実態。
その後仲良くなる病室の子供やその母親、病人役のリリー、
と脇役も超豪華で見所は沢山あるのだが、ツッコミ箇所も
多彩で、抗がん剤で苦しんでいても髪型は全く変わらない。
髪が抜け落ちるなどというリアルがない代わりに、観客の
創造力を掻き立てる様な描写が多い。生きることの強烈な
メッセージが静かな中に色を増して最後のピエタへ向かう。
やはりここだ。と思うほど迸るピエタの描画に圧倒されるが、
「今オレ、活きてます!」と告げる主人公の顔が印象的だった。
(今のプールって金魚大丈夫なの?昔ならすぐ死んじゃうのに)