劇場公開日 2015年2月28日

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「本広監督の新たな一面」幕が上がる UGFCNさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5本広監督の新たな一面

2015年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

幸せ

最初にいうと、私は本広克行監督作品が大嫌いであった。
仰々しいくうっとおしい演出はエンターテイメント作品として有りなのかもしれないが、
「ほら感動するでしょ泣いて!」「ほら面白いでしょ笑って!」
というような押し付けがましい演出の数々。
見ていてうんざりとするのである。
なので彼が平田オリザさん原作の「幕が上がる」のメガホンをとると聞いて、不安に襲われた。
女子高生がひたすら演劇に打ち込み、成長し、やがてある真理を悟る傑作。
しかもクライマックスに人が死ぬわけでも、大きな奇跡が起こるわけでもない。
その派手さのない原作を、彼のような監督がどのように料理するのか。
また演技経験の乏しいアイドルを起用した事も、ますます不安にさせる。
私は少し怖いもの見たさな含みもあって、作品を鑑賞した。

しかし私の不安は杞憂に終わる。
一言でいうと素晴らしい青春演劇映画に仕上がっていたからだ。
前半20分程は淡々とした、成り行きで演劇部部長になった主人公さおりの姿が描かれ退屈したものの、
吉岡先生役の黒木華が出現した途端に空気が一変する。
それまであまり魅力を感じなかったさおり役の百田夏菜子が、急激に活き活きとしはじめる。
吉岡先生に導かれ、演出家として、人として成長する姿、
仲間との団結が固まっていく様に引き込まれる。

ももクロの他の4人の演技も非常に良く、特にさおりと中西役の有安杏果とのシーンはグッときた。
セリフも絵作りも、心配していた演技も素晴らしかった。
彼女達は原作者平田オリザさんの演劇ワークショップを受けて撮影に望んだというが、ニワカ仕込みとは思いがたいレベル。
安心して見ていられて、アイドルものだからと偏見を持ってしまうのは勿体無いと思う。

そしてラスト手前、部長のさおりが演劇部員へ決心を伝えるシーンが素晴らしい。
その内容は作品の主題と言えるものなのだが、原作では彼女が心のなかで気付くこと。
それを部員全員の前での決意表明という形にアレンジすることで、誰もが感動できるシーンへと変貌した。
さおり役の百田夏菜子の長台詞演技は必見だ。

そしてラストに本広監督らしい仰々しい演出がなされるのだが、これが今までの彼の作品と違い嫌味に感じない。
映画としては実に地味な映像のはずなのであるが、監督の演出と音楽によって非常にカタルシスを感じるシーンに仕上がっている。
まさか私が、彼の中で一番嫌いな部分が、これほどにまでツボに入るとは思わなかった。
エンディングテーマが流れる瞬間は、思わず拍手をしたくなった。

ただここ迄絶賛するのも悔しいので苦言も。
映画の予告編に使われたあのシーンは明らかにいらぬお笑い要素だ。
追い詰められた状況を表現する為に用意したものだろうけどやり過ぎ。
せっかくそこまでしっとりと展開してきたのに興ざめだ。
唐突に出現する有名人のカメオ出演も、面白いと思ったのだろうが、商業的配慮か、この純粋な映画にとっては雑味に感じてしまう。
それからエンディングのテーマは欲張らず、1つにしぼった方が良いと感じた。
ダンスシーンも、変にアイドルアピールするのは蛇足に感じる。
もしかしたら監督は、彼女達がここ迄「女優」として成長するとは思っておらず、保険をかけていたのかなと勘ぐってしまった。

個人的に不満点は確かにあるものの、それを補って余るほど素晴らしい作品だと思います。
喜安浩平氏の脚本の力も大きいでしょうが、本広監督の新境地をみました。
という訳で星4.5です。

UGFCN