劇場公開日 2015年2月28日

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「この純粋青春映画を見よ!」幕が上がる k_t_618さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この純粋青春映画を見よ!

2015年2月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

興奮

いやあ、いいものを観ました。こんな青春映画がありうるんですね。

青春というものは、色んな要素でできている。恋とか、家族との軋轢とか、コンプレックスとか、友達とのすれ違いとか。そして青春映画はそれらをさまざまなバランスで織り交ぜ、その一つ一つをどのくらい丁寧に描き出すか、それらをどうまとめ上げていくのかという点でその独自性を主張する、おおまかにはこう言えるのではないでしょうか。

でも『幕が上がる』のアプローチは違っていた。この作品では、通常青春に付属するあれやこれやがすべて削ぎ落とされている。恋愛要素はなく、家族はみんな優しく、友達とも仲良く、富士山が見える田舎の風景は徹底してのどかだ。ではそこで青春に残されるのは何か。それは、「自分は何者なのか、そしてこれから何者になっていくのか」というその一点だ。作品全体が、この一点をめぐって展開される。

映画の舞台は高校の弱小演劇部。先輩が引退して残された部員たちは、なんのために演劇をやっているのかを見いだせないでいる。そこに現われるのが、黒木華演じる元学生演劇の女王だという新人教師。ネタバレになるので詳細は書きませんが、彼女が見せる演劇の迫力が部員たちに火を付ける。「自分たちはこれをやるんだ!」と行き先を見いだした少女たちが走り出す瞬間、ああ、胸が熱くなる。

この作品の特徴の一つは、演劇を題材としているという点。このことから必然的に、「言葉」というものが前景化することになる。シンクロ、吹奏楽、バンド、書道、どれも語るのは身体だ。でも演劇の場合、もちろん身体も重要なのだけど、それ以上に「言葉」がものを言う。作中で参照される宮沢賢治の作品をよりどころとして、部員たち、とくに演出を担当する演劇部部長のさおりは、青春に正面から立ち向かっていくための「言葉」を探り出していく。そしてそこで見いだされる言葉が深い!青春が本気を出すと、熱いだけでなくとてつもなく深遠なのだ!

青春にまつわる夾雑物がすべて削ぎ落とされる。これほどまでに純粋な青春映画がこれまであっただろうか。まさに一点突破、青春が青春たるその核心だけに狙いが付けられ、少女たちがそこを突き抜けていく。この爽快感は一体なんだ。そして喪失感。とうに失った青春をいまさらながら憧れる、この胸にくすぶる熱量をどうしてくれよう。なにより主演を務めるアイドルグループのももいろクローバーZ。この純粋青春映画はアイドルだから可能になったのだろうか。エンディングロールでキュンと締め付けられた心臓は、いまだに微熱を保っている。

黒木以外の脇を固める俳優陣もいい。ムロツヨシが醸し出すオフビートな笑いは映画に絶妙な間合いをもたらしているし、志賀廣太郎の口から流れ出す宮沢賢治の魔法の言葉は作品を奥行きをぐっと深めている。それにトラックに乗っていたあのガタイのいいおっさんは天龍じゃないか(あの滑舌の悪さは映画史に残るだろう・・・)。

いやあ事件です、いますぐ劇場に走って下さい。間違いなく、あなたの何かの幕が上がることでしょう。

k_t_618