「実は誰にでも関係あるテーマ」モアナと伝説の海 だーやまさんの映画レビュー(感想・評価)
実は誰にでも関係あるテーマ
海に選ばれた少女モアナが、世界を救うために旅に出る。正直言って「また選ばれし者の話かいっ!」「選ばれたんだから、そりゃ救えるだろうよ」などと思ってしまった。
ところがどっこい!モアナ全然海の力使えないじゃないすか!!海はあくまで手助けをしてくれるのみ。相棒となるマウイも、神の釣り針を使って様々と姿を変える力を持つ“選ばれし者”でありながら、いざ釣り針を手にしても上手く変身できない。
この映画はこの展開が最もミソであると思う。
持つ者に持たざる者、人によって才能は様々で、育つ環境や周りからの助けなどの状況も千差万別。モアナは海に選ばれたというある種の“才能”を持ち、海や家族の助けを得て世界を救いに行く。『わたし、選ばれたからできると思う!』的なことを言いながら目的地一歩手前まで来るも、撃沈。
落ち込むモアナに対する祖母の『お前はどうしたいんだい?』との声かけに、モアナはついに才能や周りの助けではなく“自分自身”を信じて立ち上がる。
そしてモアナのせいで釣り針の力という“才能”を失いかけて仲違いしたマウイも、最終的にはそれを犠牲にする覚悟で脅威に立ち向かう(余談だがこれはハン・ソロを連想させる、誰もが読めていた展開だw)。
王道で以外な展開など全くないストーリーではあるものの、
“才能の有無や周りの助けよりも自分自身を信じ、まず自分から己の人生に立ち向かうことこそが重要である”
と説くところがこの作品の斬新なところではないだろうか。
あと細かい点をいくつか、、
◯キャラデザインはアナ雪のほうがキャッチーで人気は出るだろうが、今回は特に主役のモアナをはじめ、多くのキャラクターの手足がふっくらしているところが印象に残った。必ずしも細くスマートな人だけが美しいわけではないと感じさせてくれた。
◯もともと洋画の吹替ファンなので今回も吹替で鑑賞したが、みんなとても良かった。モアナ役の屋比久知奈の歌声は伸びやかでブレがなく、いつまでも聞いていたくなる。歌っている最中の感情の変化を実に上手いことやってのけている。モアナが自分を信じて立ち上がるシーンの絶叫は圧巻!
マウイ役は尾上松也。ミュージカル「エリザベート」にも出演しているのは知っていたが、まさかこんなに歌が上手いとは!!ぜひ彼の歌声を環境の整った劇場で聴いてほしい。
そして今回のヴィラン(と言っても悪役感は薄めの)タマトア役にまさかのROLLY登場w これは最高だったww
他にも夏木マリ、安崎求、中村千絵、多田野曜平等、ミュージカルファンや吹替ファンを唸らせるキャスティングがなされており、この点も大満足だった!(中村千絵があんなに歌上手いなんて知らなかった!!)
◯そしてやっぱり音楽が素晴らしい!特に主題歌「どこまでも〜How Far I'll Go〜」は秀逸。劇中バージョンはモアナの海への憧れを歌った内容だが、アレンジと歌い手を変えたエンディングバージョンは物語を後から振り返って、旅に出る前の自分を懐かしみつつこれから先も大いなる旅に向かう、成長した主人公の気持ちが現れているかのよう。全く同じ歌詞とメロディなのに、ここまで異なる印象を抱けるのはすごいこと。またそれを訳詞した高橋知伽江氏に拍手を送りたい。
加藤ミリヤの歌唱がエモーショナルを掻き立て、自分はこのエンディングが流れ始めたときに号泣した。
また、後からサントラを聴いて気づいたが、映画終盤最も重要なシーンでモアナが歌う短い曲のメロディが、映画の一番最初に流れる曲のメロディと同じになっており、最重要曲をメインタイトル付近で流す構造もこれからのことを予感させるようで良かったと思う。
長くなってしまったけど、個人的には今のところ今年劇場で見た映画No.1!!ちなみに短編「インナーワーキング」も最高でした!!