「ショウほどイカれた商売はない」バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
ショウほどイカれた商売はない
2014年アカデミー賞作品賞受賞作。
主演男優賞は残念ながら逃したものの、
主演マイケル・キートンのはっちゃけ演技がやはり
この映画最大の見所。悲哀たっぷりなのに笑える。
かつての名声も世間の評価も娘の尊敬も手に入れたい。
落ちぶれたスターじゃなく、“役者”であると認められたい。
一方で、自分はやっぱり単なる落ちぶれたスターに
過ぎないクズ野郎だという自虐的な思いに苛まれてもいる。
彼の必死すぎる姿には笑いつつも応援したくなったし、
あのトチ狂った行動を取る終盤にも強烈な皮肉を感じた。
あんな行為ですらショウの一部になる世界。
存在証明の為に己の命を削るという矛盾。
少し『ネットワーク』や『キング・オブ・コメディ』っぽいね。
あとは演劇バカ一代E・ノートンもすれっからしなE・ストーンも
実は一番頑張ってたマネージャー役Z・ガリフィアナキスも
良かったけど、良くも悪くも印象的だったのは劇評論家のバアさん。
あいつスッゲー腹立つ!
「お前が気に入らないから舞台を潰してやる」みたいな事を
平然とのたまう人間に評論家を名乗る資格なんて無いし、
おまけにあの人は自身の影響力を知ってる上に金までもらってる。
ヤなバアさんだよホント。
登場するキャラが皆ひとクセあってそのうえ生々しい。
映画人vs演劇人の意地の張り合いを中心とした、ショウビズ界
にまつわるブラックユーモア満載の内容も面白い。
映画と演劇に上も下も無いんだから、お互いに
へんなプライド張ること無いと思うけどねえ。
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ただ……個人的な意見だが、この映画は物語に対して
映像手法が前面に出過ぎていると感じる。
全編擬似ワンカット撮影。
うん、そりゃスゴいと思う、確かに。
非常に緻密な計算のもとに撮影されてるんだろうと思う。
けど本作の場合、その手法にどんな意味があるのか?
本作の場合は、映画と違って何もかもが地続きで
一発勝負である舞台の雰囲気、言うなれば“ライヴ感”を
映像で表現しようとしたのだろうと推察する。
全編を彩るジャズドラムの即興演奏も、その
ライヴ感を演出する上での選択だったのではと思う。
だがそれならば、多少映像表現の幅を狭めてしまってでも
“擬似”ワンカット撮影ではなく本当のワンカット撮影を貫くか、
あるいは舞台の幕仕立てのように超長回しを
数回に分けるスタイルを取るべきだったと思う。
VFXや編集の入り込む余地がある時点で、
舞台“感”の再現には成り得ないと思う。
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まあ、映像に陶酔感を与えるという点では、
このめくるめく擬似ワンカットは功を奏していたと思う。
ぐるりぐるり回る映像と次々切り替わる登場人物や
シチュエーションを楽しむことはできた。
だが結局のところだ、
「スゲーどこまでワンカット?」と考えながら鑑賞してる時点で
それは映画の物語に対して没入できているとは言えない。
私的な意見だが、映像はあくまでテーマを語る上や
観客を物語に没入させる上での手法であるべきで、
手法そのものが前面に出てきても、僕は
「巧く撮れてるね」以上の感想を抱けない。
実際、せわしなく動き続ける映像に加え、
登場人物どうしの会話も矢継ぎ早に繰り出されるので、
登場人物やドラマに感情移入しきる暇は少ないと感じた。
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以上。
話題になっている映像についてはあまり評価しないが、
俳優陣の演技は見応え十分だし、ショウビズの舞台裏や
それにまつわる皮肉な笑いがたっぷりの映画。
観て損はない作品だと思います。
<2015.04.11鑑賞>