「見えない怖さ」エベレスト 3D 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
見えない怖さ
これ、底本はものすごく面白い。だけど、映像化は難しかったんじゃないかなと。
この遭難事件の原因って、山の険しさなど映像的に表現しやすい事ではなくて、酸素が薄くて精神と内蔵がやられるという視覚的にはわかりづらい部分が要因だったりする。蝕まれている当人たちも自覚できなかった状況なので、余計に映像化しづらい。(酸素ボンベのくだりも真相がはっきりしてないしなあ。)
酸素の薄さって、ほんと表現しづらいことだと思う。視覚化できない「見えない怖さ」。
酸素の件だけでなく、吹雪で場所が見えない、人の顔を見誤ったのが、被害を大きくしていて、これも「見えない怖さ」だし。
高山病で視力を失う隊員もいて、これも「見えない怖さ」だなあと思う。
「見えない」を映像化する難しさは、撮る側の人も重々承知してたと思うんだけど。
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だからこそ、エミリー・ワトソン他、これでもかっていうくらい演技派の俳優を大量投入したんだろうなあと思う。
この映画の凄いところは、こんだけ演技派投入したのに、「何で彼らが山に登るのか」が、さっぱり分からないところ。
お金・野心・ビジネス・名声・夢…いろんな理由がそれぞれあるんだろうけども、今ひとつ釈然としない。なんで、そんな苦労してまで手にいれようとするのか。ジョン・ホークス演じる登山家なんて、捨て鉢になってるようにしか見えない。彼の動機が一番わからない。
原作読んでも釈然としない。書籍の方が、様々な人の言葉を大量に引用して、人が山に登る理由を探ろうとしているんだけど、それでも説明つかない。ああ、これは、登山家じゃないと分からない、もしかしたら登山家自身にも分からない事なのかもねと思う。
説明できないないことに惹かれてしまう、そうさせてしまう山の深潭が、この映画にはあるなあと思う。それを演じたジョン・ホークスが上手かったなあと思う。
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ジョシュ・ブローリン演じる登山家は、日常から逃げたくて山に登る(この人は割合、理由がはっきりしている)。「普段は霧の中にいるみたいだけど、山に来るとその霧が晴れる」。それでも、その逃げたかった日常に、必死で戻ろうとする。その必死さが感慨深い。
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追1:本を読むと、ビジネス登山が遭難を招いた部分もあるけれども、ビジネスという秩序があるからこそ防げている事もあるらしくて、中々難しいもんだなあと思った。
追2:『エベレスト 3D』とタイトルにもあるくらいだから、3Dで観たけども効果は薄かったような。