「それよりお前のリアリティってなんなん?」解放区 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
それよりお前のリアリティってなんなん?
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画質や空気にドキュメンタリー感が溢れていて、ついぞ、ノンフィクションなのではないかと思い込みそうになるが、早い段階で「そうでない」と気付く仕掛けを用意している(本山の部屋取材のカメラで)。おかげで、どれほど真に迫っても安心して観られる。・・・そうわかっていたのに、なんだよ、これ、どっかからは本物の映像撮ってんじゃないか?って気になってしょうがない。フィクションとノンフィクションの境のすれすれをみせつけられているようなのだ。
はじめ、理不尽なディレクターにこき使われるADであった須山も、次第に同じ理不尽にまみれていく。それは、仕事が彼をそう変えたのか?西成という土地がそうさせるのか?堕ちていく須山を演じる太田(監督兼業)の、はじめの頼りなさっぷりからの変貌は、素なんじゃないかと思えるほど堂に入っていた。おそらくこのままこの世界に引きずり落とされていくのだろうし、当初の目的の達成も中途半端だし、彼女ともなし崩しだし、本山との関係さえ崩壊しているし。だけど、そんなぐらぐらな須山の立ち位置こそが、目を離すことができないこの映画の魅力なんだと感じた。
西成の人々の生き様なんて知る由もない。真実は画面の中の一部だけだろう。「どん底の人間なんて救えねえよ、勝手に上から眺めていい気になってんじゃねえよ」その罵声が、傍観者である僕の耳にこびりつく。
ふと、須山はあのまま走ってどこか遠くに逃げきるんじゃなく、いつの間にか、どっぷりと西成の住民となり、あの闇夜の立ちんぼの一人になってしまうんじゃないか?そんな想像をしてしまう。ああ、キツイなあ。
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