劇場公開日 2015年6月27日

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「観るべき点、あるいは・・・」ストレイヤーズ・クロニクル ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0観るべき点、あるいは・・・

2015年6月27日
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鑑賞方法:映画館

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「ヘヴンズストーリー」「感染列島」などの作品で知られる瀬々敬久監督が、「MOMENT」「真夜中の五分前」などを代表作とする作家、本多孝好のエンタメ大作を映画化。

日本を代表する映画評論家、淀川長治が「嘆きの天使」などの作品で知られる巨匠、ジョゼフ・フォン・スタンバーグの「上海特急」を評した言葉の中で、印象的な言葉がある。「スタンバーグの代表作ですね。これはね、話はどうでも良いんですよ。ディートリッヒが、凄いですね。それだけですね」

時に絶賛する映画に対して、遥か遠くから客観的に評する淀川らしい言だが、確かにこの「上海特急」、物語よりも先に往年の大女優、マレーネ・ディートリッヒをいかに美しく、気高く映すかに心が配られたフェチズムに満ち溢れた傑作である。当時、ディートリッヒとコンビ絶頂期であったスタンバーグにしか撮れない一品。これもまた、映画史にあるべき傑作のあり方とも言えるだろう。

で、本作である。「アントキノイノチ」では榮倉奈々、「感染列島」では壇れいと女優の魅力を引き出し、料理する名手、瀬々の手掛ける今回の一本。淀川の名言を引くとしたらこんな感じか。「瀬々監督の一本ですね。これはね、話は"本当に"どうでも良いんですよ。成海璃子がね、いいですよ。それだけですね」

「神童」「少女たちの羅針盤」などの作品で存在感を示し、独自の地位を築いてきた成海。近年は、大人の女性への脱皮を図る中で苦しんできた印象を受けてきたが、本作では真価発揮の感がある。若手俳優が台詞の消化に粉骨砕身して空を切り、岡田、染谷もどうにも工夫も苦闘も見られない白々しさが満ちる中で、成海は持ち味の低めの声でファンタジーの世界観を引っ張り、リーダー不在の物語を説得力をもって染めていく。

彼女独特のアウトローな魅力を生かしながら、サイドからの女優ライトフルで切っていく自信みなぎる一人の女優の横顔は、美しく、映える。作り手が力を発揮できない演出の中で、全力を注いだ点はここ一点にあると言ってよい。

その他、スクリーンに映える可能性を秘めた若手女優陣を揃えたが、そこは年輪・・ではなくキャリアと才気のなせる技。現代において珍しい頑固な女優気質をもつ成海が輝くのは、至極当然といえば当然だろう。瀬々は妥当な選択をした。(若手注目株、黒島結菜は今後の個性爆発に期待したい)。

と、成海の賞賛にえらく言葉を割いてしまったが、本作を鑑賞された方にはその理由も、ご理解いただけるだろう。観るべき点、あるいは「まあ、お金もったいないし、時間つぶしに観るしかない」点に、力を注がせていただいた。淀川先生、いかがでしょうか?

私は、冷たいでしょうか?

ダックス奮闘{ふんとう}