劇場公開日 2015年3月14日

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ストロボ・エッジ : インタビュー

2015年3月11日更新
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福士蒼汰&有村架純、“唯一の存在”と認め合う2人のこれから

「飛ぶ鳥を落とす勢い」という言葉がいま、誰より当てはまる2人。一方で、これが単なる「勢い」では終わらないであろうと予感させる、見る者をひきつける引力、そして何より芝居に対する貪欲さと熱意を持っている。映画「ストロボ・エッジ」で、「あまちゃん」から数えて実に4度目、映画では初となる共演を果たした福士蒼汰有村架純。スクリーンに、いまこの瞬間のまばゆいばかりの輝きを刻み込んだ。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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学校No.1のモテ男の一ノ瀬蓮とそんな彼に年上の恋人がいることを知りつつも想いを告白し、フラれてしまう木下仁菜子。2人を軸に切ない片想いを胸に秘めた高校生たちの青春を瑞々しく描き出す。原作は「アオハライド」でも知られる咲坂伊緒氏による累計580万部突破の人気漫画だが、福士も有村も高校時代に原作を愛読していた。それどころか、福士は以前から蓮に憧れ「自分が演じるなら?」と想像し、セリフを声に出して読んでいたという。その役柄が自分の元に舞い込んできたことに、喜びはもちろんだが「自分の中で蓮に対する理想が高い分、自分に務まるのか? という不安もありました」と偽らざる胸の内を明かす。この1年でも映画「好きっていいなよ。」、ドラマ「きょうは会社休みます」とタイプは違えども、漫画原作の作品でヒロインをときめかせる“王子”を見事に具現化してきた。福士なりの漫画原作の映画へのアプローチを聞いてみた。

「やはり原作に強い思いを持っていらっしゃる方がたくさんいますし、僕も自分が読者の立場だったとして、そのイメージを壊してほしくないという思いは強く持つと思います。ただ、だからといって演じる時にあまりにイメージ通りにこだわり過ぎると、実写では無理が出てきてしまう気がするんです。実写の良さ、映画だからこそできることもあるので、そのバランスを見つけていくことを大切にしています」。

特に今回、蓮を表現する上で最も重視したのは「感情の変化」だった。「蓮は、気持ちが一貫しない男なんです(笑)。感情の移り変わりや、仁菜子への思いに気づいて、その気持ちを時に抑え込もうとしたり、抑えきれずにあふれたり。その変化が見えないと『ストロボ・エッジ』の面白みである“すれ違い”が出ないので、そこは意識しました」。

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有村も高校時代に原作を読み、自分と同世代の登場人物たちの恋愛模様をのぞき見て「『この世界に入りたい!』と思うくらい羨ましくなった」という。演じるにあたっては、仁菜子のあまりの真っすぐさとピュアさを「自分にはない」と感じ、不安を覚えたこともあったという。「ああしよう、こうしようと考え過ぎず、蓮くんのことが好きという気持ちを大事にしました」という言葉からは、キャラクターよりも人物の感情を強く意識して演じていることがうかがえる。「仁菜子がどんな子なのかはもちろん考えます。でもそこで、例えば天然でちょっと抜けたところがあるからといって、それをそのまま表現してしまえば、あざとく見える。そうではなく、一生懸命にやっていることがそう見えてしまう、というのが理想なんです」。

仁菜子役のためにバッサリと髪を切ったことが、製作の段階でも大きなニュースとして取り上げられたが、仁菜子にイメージを近づけるという以上に役へのアプローチ方法として、有村に新たな発見をもたらしたようだ。「やっぱり、長いと仁菜子じゃないと思って自分で『切りたい』と言ったんですが、自分の中で髪を切って容姿を変えるというアプローチがすごく新鮮でした。いままでの自分を捨てて新しい自分になった――いままで自分で自分を見て抱いていたイメージから、少し離れたところに行けた気がしました」。

福士は「すれ違い」と表現したが、2人の微妙な距離感は物語の中でも重要なポイントだ。仁菜子が抑えきれない思いを告白し、フラれるところから映画は始まるが、その後も2人は、ある時は距離を縮め、交差し、ある時は離れていく。この絶妙の“距離感”に関しても有村は、シーンごとに「知らず知らずにバランスを取れていた」と明かすが、これはやはり相手が気心の知れた福士だったからだろう。4度目の共演となるが、芝居を通して互いの中に仁菜子と蓮の要素をしっかりと感じ取っていたようだ。福士は有村についてこう語る。

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「結構、似ているのではないかなと思います、有村さんと仁菜子。笑顔がかわいいところとか、目が語る表情が似ていて、蓮という役を通して真っ直ぐな視線がビシビシと伝わってきました。ドジなところ? それもたまにあるかな。仁菜子よりはまだ有村さんの方がしっかりしてると思います…って、“まだ”っておかしいですね(笑)」。

有村もまた福士が持つ蓮の要素について「人にないものを持っている感じというか、雰囲気や立ち居振る舞いですね。常に自然体で感情の起伏が激しくないので、いつ会っても安心するんです」と語るが、一方で4度目の共演で気づいた新たな一面も。「わりと最近、思ったんですが、意外と緊張しやすいのかなって(笑)。いつも堂々としているし、何をしても受け止めてくれるんだけど、意外と(笑)、多分ですがすごく考えていて、緊張したりしているのかなと思います。でも、そういう面があって嬉しいです(笑)」。

そしてもうひとり。現場で2人を仁菜子と蓮たらしめた存在として、忘れてはならないのが廣木隆一監督。感情を丁寧に描き出す演出がどの作品においても印象的だが、そのために一切の妥協なく、何度でもテイクを重ねることで知られる。福士も廣木組の“洗礼”を受けた。

「僕が何度も繰り返したのは(バイト先で)ストレートティーを持ってすれ違うというシーン。1秒もないようなテイクですが5回…いや、10回以上は撮ったと思います。『はい、もう1回』『はい、もう1回』と(苦笑)。どこをどう直したらいいのか。とりあえず毎回違うことをいろいろ試して、あるところでOKが出たんですが、実際に何回目のテイクが本編で使われているのかは分からないです。蓮という役を何度も繰り返すことに意味や狙いがあったみたいで、そこで蓮としての動きや歩き方、手の上下の動きまで染み込ませてくださったのかなと思います。廣木監督に演出していただいて、すごく勉強になりました。また、感情を読み取ってくださるので、自分のやりたいことをこちらから言葉で言わなくても、演じさせていただける感じでした」。

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そして、廣木監督の下で、蓮という役を演じる中で手に入れた新たな発見についてもこう続ける。「例えばあるシーンで、芝居がやりづらいと感じても、それは決して悪いことではないんだということを廣木監督に気づかせてもらいました。蓮が思いを伝えるシーンで、蓮があれだけ感情を出すことにすごくやりづらさを感じたんです。これまであまりしゃべらなかった蓮が余裕なく自分の意思を伝える。そういうことをする人間ではないのにそうしているのがやりづらかったんですが、その蓮らしくないところを大切にしてやってみると、意外とうまくいくんだと学びました。やりづらいからダメなのではなく、そう感じるにはそれなりの理由があって、その意味を探して、じゃあそれを改善するのか? それとも肯定するのか? 肯定することもできるということを学びました」。

有村は「お芝居は引き算だから――」という、撮影序盤に廣木監督から言われた言葉を、「いまでもお芝居をする中で大事にしています。お芝居の根本に改めて気づかされました」と同調する。「安堂くん(山田裕貴)とのシーンで、仁菜子がどういう風にいればいいのか分からなくて、現場でリハーサルをしてもしっくりこなくて監督に相談したら、『もっと(感情を)自分に掛ければいいんじゃない?』とおっしゃってくださったんです。それまで安堂くんに対して『こうなんでしょ? だからこうなっちゃったんでしょ?』という感じで言っていたんですが、それを全て自分に掛けてみたらどうかと。やってみたらすごくふに落ちて、そこから全て違和感なくできたんです。分からなくなったらアドバイスをくださるんですが、それ以上は特に指導もなく、自分で気づいて動いていく。廣木監督のそのスタンスはすごくやりやすかったです」。

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最後に再び、互いについて質問。共に「あまちゃん」出身の俳優の中で“出世頭”とされる2人。蓮と仁菜子ではないが、時に近くで、また時に離れた距離で目覚ましいまでの活躍を目にして、どのような思いを抱いているのだろうか。有村は、「全く同じ道ではないかもしれないけど、歩んでいる道は似ているのかなと感じていて、だからこそ分かる気持ちもあるし、刺激にもなるし、私はすごく嬉しいです」と話す。

福士もまた有村に対して抱いている特別な感情を明かす。「感覚の合う女優さんだなと感じます。『あまちゃん』があって、そこからこんなに何度も共演させてもらって…という女優さんは有村さんしかいないので、何というか唯一の存在なんです。同じようなスタートで歩み始めて一緒に成長していったと僕は思わせてもらっていて。一緒にお芝居させてもらうと、ピタッと歯車が合うような感覚だなと感じています」。

劇中、蓮と仁菜子の頭の中に同時に同じ曲が流れたり、風の匂いに同じように季節の移り変わりを感じる一瞬が描かれる。それはいま、福士蒼汰有村架純だからこそ表現することができた“共鳴”なのだろう。

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