「反戦映画をどう撮るか」野火 吹雪まんじゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
反戦映画をどう撮るか
川越スカラ座にて塚本監督の舞台挨拶有りの一日限定上映。
舞台挨拶は監督のぎっくり腰によりオンラインに変更。スクリーンにカメラの映像を映し出しての舞台挨拶となりました。辛い状態だったと思いますが、質問一つ一つに真摯に受け答えしてくださる姿勢に感銘を受けました。それはまた、本作に対する熱量の表れでもあったのかな、と思いました。
鑑賞当日の午前に同劇場にて、1959年の市川監督による「野火」を鑑賞した後でしたので、舞台挨拶での解説もあり、塚本監督の撮りたかった「野火」とは何だったのかが、より分かりやすかったです。
監督の口から出た「戦争に対して"良い"トラウマを植え付ける」ということ。これが本作の軸になっています。戦争をエンタメとして、よりドラマティックに撮る監督もいるかと思いますが、反戦映画として撮るならば、美談にしてはいけない。「はだしのゲン」のような強烈なトラウマを植え付け、戦争に対して嫌悪感を抱かせなくてはならない。だからこそ、市川版よりも視覚的に強烈なインパクトを与える必要があったのです。
そして人物描写。塚本版は登場人物達がより身近な存在であることを感じさせるものとなっています。セリフ回しや感情の表現などにそれが反映されています。これは、戦争を他人事ではなく、自分の身にも起こり得ることであること、実際に戦争に巻き込まれたらどうなってしまうのかを感じて欲しいとの思いからだそうです。
ストーリーですが、大筋は市川版と同じですがラストに塚本監督の思いが強く込められていました。市川版ではややドラマティックに描かれていたラスト。私も思わず涙をこぼしてしまいました。しかし、塚本版の胸糞悪い終わり方よ。主人公が下した究極の選択とは。そこには人間の本質と、戦争によって歪められた倫理観がありました。
塚本監督の思惑通り、まんまとトラウマを植え付けられた私ですが、是非とも多くの人に観て頂きたい作品です。そして、戦争とは何なのかを感じて欲しいです。テレビのニュースでは知り得ないものが沢山あります。
最後に、塚本監督、本当にありがとうございました。
※川越スカラ座は、外観、内装含め昭和の香り漂うレトロな雰囲気のコミュニティシネマですが、資金難による閉館が迫っている状況です。現在「川越スカラ座閉館回避プロジェクト」を実施中で、LINEスタンプや川越スカラ座グッズの購入による支援が可能です。(詳細はHPにて)館内にて募金も行っております。ご興味を持たれた方は是非、この独特な雰囲気の映画館を体験してみてください。
> 当日午前中に市川監督
すごい! 「野火」を一日2回も観たわけですね。尊敬! そきて俺はできるか自信ないけど、うらやましい。
俺も見事にトラウマを植え付けられました! 塚本監督、ありがとう。舞台挨拶教えてくれて吹雪まんじゅうさん、ありがとう!!
コメントありがとうございます。
今回初見だったのですが、最初流れた塚本監督のメッセージからも強い意思は感じられました。
でも自分は無意識なエンタメ感覚を感じました。最初の病院との行ったり来たりを筆頭に、飢餓と疲労と恐怖で1周回ってヘラヘラしてしまう様な感覚。失禁しながら笑ってしまう感覚みたいなモノですかね。
市川崑版も是非観たいですが、劇場にかかるのは?1年先でしょうか。
この作品は、毎回、見終えた時には二度と見なくてもよい、と思うのですが、また上映があると、見なくてはいけないという義務感に襲われます。
なかなか人に勧めるのも躊躇するのですが、一人でも多くの人に見てもらいたいと思い、人に勧める努力をしているところです。
この映画を見た時の居心地の悪さを大切にしたいと思っています。