「隙間を埋める。」0.5ミリ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
隙間を埋める。
安藤サクラの快進撃が止まらない。
今作では姉が監督、実も義理も家族が総出で作品を担っているが、
主演のサクラはいつも通り掴みどころなくフワフワ感の仕上がり。
…かと思いきや!トンデモなくハードボイルドな一面も見せる。
信頼する姉に撮られている安心感はあるだろうが、ジジイを相手に
縦横無尽に動き世話をしまくるサワという人物の実態を感じさせる。
介護ヘルパーは大変な仕事だろうと思う。当の姉妹は介護経験が
あるため、その動きもスムーズ。ああいう動作は介護に慣れてないと
おそらくできないと思う。加えて母親の影響もあろうが、料理作りの
テキパキ感、ごく普通の惣菜がサラッと並ぶ食卓のなんて美しいこと。
食材を捌くサクラの手慣れた動作からもこの子はノンベンダラリンと
育ってきた娘ではないことが分かる。そんな実像ともとれるサクラの
動きそのものが美しく温かくチャーミングに撮られている作品である。
長尺196分にゾッとするのも初めだけ、長いとは思うが全く飽きない。
サワが次にどこへ行き誰の世話を焼きどう動くのか予測できないのだ。
そして最大の謎は冒頭の家族。この家族の真相が最後のエピソードで
明かされるが、謎だった母親の行動がここで判明して突然背筋が凍る。
守りたい母親の心理と、幾つになっても獰猛な生殖器をぶら下げて迫る
えげつない男の性。その本能を躊躇なく描くことで老人介護の問題点を
浮き彫りにし、それでも愛を持って近づいていくサワの熱意は0.5ミリの
隙間を埋めようと奔走する。善意も悪意もあるのが人間であることを
戦争体験(この件はやや異質)を交え矜持し、浅田美代子演じる久子が
サワの仕事ぶりを賛辞する後半と坂田師匠の御礼札には私まで泣けた。
(ココロのスキマ、お埋めします。というのはウソじゃないってことね)