映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム : インタビュー
「ひつじのショーン」はバスター・キートン? R・スターザック監督語る裏話
NHK Eテレでおなじみのまん丸な目とふわふわの毛。人気クレイアニメ「ひつじのショーン」が、シリーズ初の長編劇場版「映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」となって日本にやってくる。英アードマン・アニメーションズの代表作「ウォレスとグルミット」から飛び出したショーンは、世代や国を超えて人々を魅了。テレビシリーズを生み出したリチャード・スターザック監督が、製作の裏側や人気の秘密を語る。(取材・文・写真/編集部)
「ウォレスとグルミット、危機一髪!」(1995)のスピンオフとしてスタートした「ひつじのショーン」。5分ほどの登場にもかかわらず爆発的人気を獲得し、テレビシリーズ化が決定。テスト版の監督として声がかかったスターザックは、「(用意された脚本の)ショーンがすごく人間っぽく行動が浮かばなかったんです。そこで原点に立ち戻り、もっとヒツジらしくしたいとアイデアを出しました。柵の中での生活から抜け出して冒険がしたいという気持ちがあるほど、ストーリーのアイデアが生まれるんです」と組み立てた。
ショーンをはじめとしたヒツジたち、牧場主、牧羊犬のビッツァー。「まるで牧場主が父親、ビッツァーが兄、ショーンが弟という家族みたいなもの」という普遍的な物語であると同時に、「どこでも通じてみんなが愛する」ドタバタ喜劇として国境や世代を超えて愛されているシリーズを完成させた。
「ひつじのショーン」は、動物はもちろん人間もセリフがなく、キャラクターの表情や行動で表現される。スターザック監督はショーンたちを形作る上で、実写喜劇からインスピレーションを得た。「テレビシリーズから一番参考になっているのはバスター・キートンで、無表情なところがショーンと似ていると感じました。完全にサイレントではなく、非常に効果的に音響を使っている点では、ジャック・タチも参考になりました」。こうして、笑いに包まれたショーンの世界ができあがった。
テレビシリーズは約7分というショートストーリーだが、本作は85分。長編映画化にあたり「子どもたちだけでなく、観客全員が途中で飽きてしまうのではないか」と大きな恐怖をともなったが、「絵コンテをつなげたストーリーリールに音楽をつけたものを見たときに、現代版無声映画として成立するのではないか、逆にセールスポイントになるのではないかと思ったんです」と振り返る。「セリフがない分、シンプルなストーリーにすることが大事だったんです」と試行錯誤を重ね、「キャラクターがその時何を考えているか観客に伝わること」とセリフに代わるキャラクターの表情は丹念に練られていった。
約1年間温められていた映画企画の構想が始動したのは2012年。脚本執筆に18カ月、撮影・編集に10カ月――完成までに約2年4カ月を要した。最も労力が費やされるのは、「ストーリー上何が必要で何が必要でないか」を取捨選択するストーリーリールに取りかかる段階だという。今回、窮地に陥ったショーンとビッツァーを救うべく、ヒツジたちが奮闘する場面だった。
物語は、単調な生活に飽きたショーンたちが、牧場主にいたずらを仕かけたことから巻き起こる騒動を描く。ジョン・ヒューズ監督が、ずる休みを満喫する高校生の一日を映した青春映画「フェリスはある朝突然に」に着想を得たそうで「ショーンは、いろいろなことをやっても変わらないんです。主人公が何かを学んで変わるのが普通のストーリーですが、『フェリスはある朝突然に』は周囲の人々に影響を与えても、主人公は変わらない。そういう点がヒントになりました。主人公を追う校長先生は、トランパーの参考になりましたね。今回、ショーンを慣れ親しんだ場から離れさせることが大きなポイントでした。最終的にはそこに戻りますが、乗り越える障害は物であり、人であり、自分の中の感情なのです」
ショーンの誕生から20年。スターザック監督にとって、ショーンはかけがえのない存在となった。「ニック・パークが『「ウォレスとグルミット」は自分にとって本当に実在する。どんなシチュエーションでも彼らがどう反応するかわかる』とよく話していて、最初は理解できなかったのですが、今ではショーンが僕にとってそういう存在です。どんな状況でも彼ならこう考える、行動するだろうと全部分かるんです。今もショーンの世界は大好きですし、無声のドタバタ喜劇を作りたいという夢が今回かないました」と、目の前に並ぶショーンのフィギュアを前に顔をほころばせた。
来日したスターザック監督は「ショーン人気は、イギリス以上に日本が一番なんです」と笑顔を見せる。「道徳観や教訓めいたことは言うつもりはありませんが、この作品は家族や人間関係、特に牧場主とショーンの父と息子の物語です。今自分が持っているもの、あるものにもっと感謝すべきなんだと伝えたいです」とスクリーンを通じて思いを届ける。