誰よりも狙われた男のレビュー・感想・評価
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フレームアウト
ハンブルクを舞台に、ドイツ右派・左派・米国が入り乱れる諜報戦を描いた本作。ジョン・ル・カレ原作。他のル・カレ作品同様に、息詰る諜報戦もさることながら、個人の心情が際立つドラマだった。
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P.S.ホフマン演じる諜報員が、辞めたがっている工作員の青年に、「I need you」と言って引き止めるシーンが印象的だった。
誰もが誰かに「必要」とされたがっている。
自分のやっていることが、役に立っていると思い込みたい。
諜報員は、その気持ちを利用して、様々な人を寝返らす。
「あなたの協力が、彼(彼女)を救うには必要なんです。」
この言葉で、銀行家、人権派弁護士らは、諜報員側に寝返っていく。
諜報員がやっていることは、より大物を釣るための餌となる人物を確保することで、その言葉には嘘がある。銀行家も弁護士も密入国者も餌に過ぎない。
諜報員は多くの嘘をついてきたにもかかわらず、彼自身が一番、その嘘を信じたがっているように見える。自分のやっていることが、誰かの為になっている、世界を良くするものと、信じたい。
この映画の結末は、諜報員が信じたかったもの全てを、壊してしまう。
いや、最初から、「諜報員が信じたかった世界」など無かったのだ、そのことを、まざまざと見せつけて終わる。
ラスト、「信じたかったもの」の消失とともに、P.S.ホフマンが、画面からフレームアウトする。
なんと無常なフレームアウト。
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ジョン・ル・カレの原作を読んだ時、大変面白かったが、彼の黄金期は60~70年代で、それらの作品群に比べたら、いささか物足りないと、個人的には感じた。
が、この映画のラスト、ホフマンのフレームアウトを観た時に、これが、ルカレが描こうとした「現代の無常」だったのかと、気付かされた。
本作のホフマンは、ルカレ以上にルカレの無常を体現していたのではないか。
ルカレは、ホフマンに対し、「We shall wait a long time for another Philip.」と、最大限の賛辞と哀惜を表している。
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本作は、ホフマンの映画と言って過言はないが、その分、割を食ったのが、銀行家役W.デフォーと弁護士役R.マクアダムスだろうか。原作で描かれているエピソードも大幅に削られている。出番が少なかった中で、二人とも健闘していると思う。
デフォーが弁護士から「あなたを信用している」と言われて、協力を決意するシーンがある。デフォーが演じると美人弁護士と懇ろになりたいという下心が見えてちょっとイヤらしい感じもしたが、誰かから信用されたがっている男の孤独がよく出ていたと思う。この映画は「trust」に過剰反応する孤独な人たちの話なんだなあと思った。(このシーンのあとも「trust」という言葉は何度も出てくる。)
弁護士役マクアダムスは、この映画には甘すぎる容姿で観ていてイライラしたが、理想を追うばかりで実は何の覚悟も出来ていなかった甘い若者という役ドコロには、結果的に合っていたと思う。
その他ロビン・ライト、ニーナ・ホスなど女優陣も良かった。
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追記:舞台となったハンブルクに関して
ル・カレ自身が諜報機関MI6に所属してた頃(1950年代)の赴任地、ハンブルク。当時は、東西の壁があり、ソ連vs欧米で対立国がはっきりしていた。
現在はどうか。国vs国という明確な対立は本作では描かれない。対国家というよりも対テロリズム。国境で敵・味方が分別できた頃と違って、誰が敵なのか選別すら難しくなっている。
ハンブルクは、アメリカ同時多発テロの実行犯アタが、留学・就労していた街であり、彼がイスラム過激派として先鋭化していった場所でもある(アタは故郷ではノンポリの普通の人だった)。
そういった背景をもとに、本作では、欧米の紕い(ドイツ右派・左派・米国それぞれで作戦に差異があり、どのチョイスが正しいのか、誰にも解らない)を、描きたかったのかもしれない。テロ後の「欧米の混迷」を主眼として観ると、いささか甘い描写もあり、現状はもっと酷ではと思う所もあったけれども。
地味だった
リアリズムに徹する表現は好きなんだけど、あまりに地味で眠くなる。人が歩いたり車で移動して誰かと会って話をする、それだけでほとんどの場面が構成されている。地味すぎて、うっかりしていると雑念に集中してしまい話についていけなくなる。
女弁護士を拉致する場面、その後監禁する場面、女弁護士とイスラムの男が尾行を撒く場面、盗聴や盗撮する場面などなどは地味ながらもとてもスリリングだった。
スパイチームが達成するポイントが、金の振込先を特定するところで、そんな地味なところを見せ場にするのはとてもセンスを感じた。盗撮カメラが何台もありすぎて、見つかるのではないかと心配だった。
フィリップ・シーモア・ホフマンがこの後亡くなってしまうのだが、そう思って見ると体調があまりよくなさそうだった。太りすぎているし、顔色も白すぎる。走る場面は倒れるんじゃないかとハラハラした。「ファーーーーーック」と叫ぶ場面はかっこよかった。デブのおじさんなのに、色気があってかっこよかった。
本物の諜報戦?
派手なエスピオナージではありません。
今年(2014年)急逝したフィリップ・シーモア・ホフマン最後の作品。
ジョン・ル・カレの同名の小説が原作。ジョン・ル・カレの原作を下にした映画といえば、『裏切りのサーカス』がある。この『裏切りのサーカス』は、ものすごく静かな
淡々とした雰囲気で話が進んでいったが、この作品も同様。そういう意味では、好きでないと、途中で飽きてしまうかも。
さて、この作品と同じエスピオナージを描いた映画といえば、ジェイソン・ボーンシリーズがある。そのジェイソン・ボーンシリーズは、非常にアクションが派手な作品である一方、この作品はその対極にある。スパイ活動は人目につかないことが原則なので、どちらがより本当らしいかといえば、こっちの方が、より本当なのかな。
加えて、舞台がドイツというのも、非常に興味深い。その国家の成り立ちと、地理的位置から言って、ドイツにおけるスパイ活動というのは、やっぱり激しいんでしょうね。これが、9.11以降の現代の話であるというのは、あまり信じたくはないですが・・・。って言うか、昨今の世界情勢から言って、より激しくなっているのかな。
先にも記しましたが、激しいアクションシーンを期待すると外されます。より暗い、人間の暗部を照らしだすような作品です。
集中して見るべき
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