「誰よりも惜しい俳優。」誰よりも狙われた男 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
誰よりも惜しい俳優。
原作も秀逸なのだろうが(未読)、映画も主演俳優も秀逸。
ヒタヒタと緊張感が増す中、報われないラストが切なく残る。
J・ル・カレ作品の中では「裏切りのサーカス」より観易かった。
それにしてもP・S・ホフマンこれが最後の主演作品だったのか。
あーもったいない、そんな言葉しか出ないほど素晴らしい演技。
今作の完成を観ることなく逝ってしまったそうだが、何とか公開
にこぎ着けたこと自体が喜ばしい。それ程今作の演技は重厚だ。
タイトルの狙われた男とは果たして誰のことだろうと初めから
考えていたが、なるほど…やはりしてやられたか。酷いものだと
身につまされる。冷徹に見せても実は温情派、地位や栄光よりも
さらに大物を挙げるべく邁進するテロ対策チームの仕事人間だが、
そんな風にデキる男ほど狙われるに決まっている。彼の獲物には
CIAや人権団体まで絡んでこれは難しいぞと思う中、卓越した
手捌きで協力させては任務を遂行していくバッハマンだったが…。
レイチェル、ロビン、ウィレムと豪華競演陣の演技も素晴らしく、
誰が死んだわけでもないのに背筋がゾッとするシーンが多数ある。
そもそも国際指名手配のテロリストを匿う⇔泳がせるなんていう
ことができるんだろうか。しかもあんな目立つイケメンで真面目、
遺産も要らないなんてホントかよ?と思うくらい脱テロリスト系。
これで観客に共感度を増そうって作戦だな、なんて訝りながらも
まさかのラストで「あーっ!」となる。バッハマンが大声で喚く姿
が実に切ない。シャラっと車に乗り込む女のまぁ憎たらしいこと!
「東ベルリンから来た女」のN・ホスが忠実な女部下を見事に体現し、
取調室や車載カメラの寒々としたハンブルクの風景も身に沁みる。
(この頃のホフマンは更に太ってて、走るのがかなりキツそう~)