「黒いトノサマバッタになって欲しかった…」グラスホッパー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
黒いトノサマバッタになって欲しかった…
伊坂幸太郎のベストセラー小説の映画化。
「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュストーリー」「重力ピエロ」「ゴールデンスランバー」「ポテチ」…映像化された伊坂作品は原作未読の者でも好きな作品多いが…、
渋谷のスクランブル交差点で起きた無差別殺人事件をきっかけに、3人の男のドラマが交錯する…。
事件で婚約者を亡くし、事件に関与ある闇組織に潜入した元教師・鈴木。
超能力のような力でターゲットの精神を狂わし自殺に追い込むが、自らも精神を病む“自殺屋”鯨。
華麗なナイフさばきでターゲットを瞬殺する、耳鳴りに苦しむ孤独な若き殺し屋・蝉。
心に闇を抱えた3人に、闇組織の暗躍、“押し屋”と呼ばれる殺し屋、水面下で動くある組織…。
絡み合う人間模様はさながら物語の発端であるスクランブル交差点。
タイトルの“グラスホッパー”とは、トノサマバッタ。密集して育つと、黒く変色して凶暴になる。
黒く染まった男たちの運命は…?
題材的には面白く、ハードにもダークにもスタイリッシュにもなれそうなサスペンス。
が、原作はどんなに傑作か知らないが、原作の魅力が活かし切れてないのが分かる。
特に、3人のドラマが巧みに交錯してる訳でもないのが致命的。鈴木と2人の殺し屋に特別接点もナシ。こっちはこっち、あっちはあっちで展開。全て終わっての蝉の台詞「何だ、あいつ」って…。
なので、このエピソードは本当に必要なのかとつい思ってもしまう。鯨が見える殺した相手の亡霊とか。
ボリュームある内容を急ぎ足で詰め込んだ印象。
モチーフも今一つピンと来ない。
ラストの伏線回収もカタルシス感が無い。
優しい性格の鈴木が黒く染まり、ラストで…と思ったら、最後までへなちょこ男。
生田斗真にとっては新境地だろうけど、殺し屋の浅野忠信、山田涼介、もう一人の殺し屋・吉岡秀隆、とあるミュージシャンに心酔する殺し屋エージェント・村上淳、悪女・菜々緒、闇組織のボス・石橋蓮司、亡霊・宇崎竜童などなどなど周りが一癖二癖ありすぎて霞んでしまった。
黒いトノサマバッタになりきれなかった鈴木は、復讐の虚しさを代弁しているのかもしれない。
ラストの少年は、亡き愛する人の想い。
でも映画としてはね…、黒いトノサマバッタが見たかったんだな。
結局何を言いたかったんだか分からず、不完全燃焼。