劇場公開日 2015年6月13日

「鎌倉という場所が、すべての人間の業を包み込み、癒していく。人の弱さとやさしさの物語」海街diary コタツみかんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0鎌倉という場所が、すべての人間の業を包み込み、癒していく。人の弱さとやさしさの物語

2025年3月21日
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豪華すぎる俳優陣に目を奪われがちだが、まずもって原作のストーリーが最強。両親に捨てられた3姉妹(いわゆる機能不全家族)の日常と和解の日々をこれほどまでに繊細かつ優しいタッチで描ける吉田秋生という漫画家に脱帽であり、それに惚れ込んだ是枝が素晴らしいと言わざるを得ない。

3姉妹の日常は、一見すると平和に見える。が、自分たちを捨てた両親を憎んでいるはずの長女は自らも職場の医師と不倫関係にあり、次女は男と酒に溺れ、3女はエベレストで足の指6本を失ったバイト先の店長に好意を抱くという三者三様の壊れっぷり。そこに父の訃報が届き、腹違いの中学生の妹がいることを知るのだが、子どもの頃から親代わりで家を守ってきた長女は、気丈にふるまうその妹を見るや、彼女も自分と同じ、大人のだらしなさのためにしっかり者にならざるを得なかった境遇を一瞬で見抜くのだ。

そして、両親不在の辛さを知る3姉妹は、あろうことか身寄りのない腹違いの妹、つまりは自分たちの家庭を壊した人の子どもに「鎌倉に来ない?」と呼びかけるというのが、なんとも素敵すぎる。「行きます」とほとんど即答で答えた中学生の妹の姿が、いかに居場所がなかったかを想像させて切なく、もう開始15分ほどで「あぁ、あったかいなぁ。人の痛みがわかる人間っていいなぁ」と泣きそうになる。

自分の居場所に戸惑いながらも徐々に心を開いていく腹違いの妹、3人を捨てた母親と長女の和解、そしてだらしなかった父親を赦していく3姉妹のやさしいまなざし……。

これは、人の弱さとやさしさの物語だ。父親は人に同情してすぐに女性とどうにかなっちゃうダメな弱い人だったかもしれない。でも、その弱さとやさしさの結晶とも言える腹違いの妹と向き合う中で、3姉妹はもろく傷つきやすくもキラキラと宝石のように輝く妹の姿に、父が遺したかけがえのないやさしさというものを見いだしていく。だからこそ、長女は人の死を看取るターミナルケアの道を選び、次女は弱った人に手を差し伸べる融資課に進み、3女はエベレストの夢やぶれた店長を支えたいと思うのだ。

そして、4人を取り巻く男たちも、みな温かく、限りなくやさしい。サッカー少年や次女の上司、そして長女の不倫相手ですらも、あぁ彼女の苦しさをずっと支えてきたのはこの人だったんだなぁと思わせてくれる。

鎌倉という場所が、すべての人間の業を包み込み、癒していくような、そんなこれ以上ないやさしさに溢れた映画である。

コタツみかん
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