「心意気 - 共感しまくりの気持ちのいい映画!!!」シェフ 三ツ星フードトラック始めました とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
心意気 - 共感しまくりの気持ちのいい映画!!!
いろいろなイシューを、余すことなく、こう料理するとは!
この監督作品を見るのはこれが初めてだけれど、すごい手腕の持ち主だ。
漫画で、「16ページで良い作品を作れなければ、素晴らしい長編なんて作れない(4コマでという人もいる)」という言葉を思い出してしまった。
自分の料理に自信を持っているシェフ・カール。
冒険して評判に傷がつく、常連から見放されることを恐れるオーナーとガチ対決してクビになる。
そこに絡んでくるのが、ブロガーのレビューとSNS。
カールがブロガー・ラムジーにキレる。「座って食べているだけで、人が一生懸命に作った料理にケチつけるな。経営や、生活が懸かってんだぞ!(思い出し引用)」
確かに一理ある。
映画のレビューにも通じる話。
だからね、納得する反面、文句言いたくなった。
確かに座って味わうだけだ。時に楽しみに、時に暇つぶしに、時に付き合いで…。そしてその為に使う費用、決して楽して稼いだもんじゃない。カールよろしく、理不尽な要求に耐えてとか、仕事以外の時間に研鑽積んでとか、苦労して手にしたお金を使っているんだということ、わかっているのだろうか。無料の試写会にはせ参じるときもそう。そこまでにかかる交通費はもとより、時間に間に合うよう、すべての予定を調整して、周りに頭下げて、とそれなりに苦労している。それなのに、がっかりした物を見せられた時の残念感。1日の気分が台無し。
映画や料理だけでなく、つい前日9,500円とられた老舗ホテルの部屋や調度類が、風呂付カプセルホテル級で、げんなりだったのを思い出してしまった。
だから、ラムジーが2度目の料理を食べたときの表情にとても共感してしまった。そうなんだよ。
「これを出しておけば稼げる(常連客はついてくる)」という、客をなめ切った制作者の態度に、ブーイング。
確かに、定番料理が常においしい店も知っている。そんな店は、定番を作り続けながらも、常に客の表情を見ていて、微調整している。半面、初回にいただいた時は、この世のものとは思えぬおいしさだった卵焼きが、二度目に行ったとき焦げていたときの残念感。サービスの質も落ちていた。
映画だって『MI』や『007』など、超長寿シリーズがあるけれど、シリーズとしての品格を保ちながらも、常に新しい要素を取り入れて、決して気を抜かない。反対に混迷していくシリーズもある…。
挑戦しすぎて変なものを味わわさせられるのも困ったものだが。
貴重なお金と時間を使うのだから、できるだけ、お金と時間をどぶに捨てないように、レビューをチェックする。喜びは分かち合い、残念な想いには警報・注意報を出したくて、レビューを投稿する。
はてさてこの映画の料理人(製作者)は、どう展開していくのだろう。
そんな料理人・カール(製作者・監督)としての心意気を、さらに感じてしまったのは、息子・パーシーとのやりとり。
販促としての本編映像としても流れているけれど、無料だからと焦げたサンドウィッチを提供しようとするパーシーに、カールが言う言葉。そうなんだよ、料理にしろ、映画にしろ、他のサービスにしろ、味わった後に、満足した表情をしたいから、一生懸命に働いたお金を使うんだ。
そして、それにパーシーが「Dad」と答えるのではなく、「chef」と答えるところが、また、最高!!!
そんな、製作者と、それを享受する方のやりとりが、SNSを介して、展開していく。
始めは、「自分は一流のシェフなんだ」というプライドから、フードトラックを馬鹿にしていたカール。
フードトラックだって一国一城の王でしょと、勧める元妻・イネスにのせられて、ファストフードのフードトラックを始める。
友達・息子の力を借りて、マイアミからロスアンゼルスまでのロードムービー。
その過程で、
上記の料理人(製作者)としてのプライドー譲れぬものと、変わりえるものー真のプライド、
お金稼ぎーピンチはチャンス?ーある番組(どんな番組?)への出演も含めてー、
「君は負け犬ではない」「負けたけど」の違い、
SNSの問題点と効用、
レビューの問題点と効用、
友情、ー同列の仲間と思っていたら、上司と部下にと関係が変わることもさりげなく挟まれるー
父子の物語ー何か特別なことをするんじゃなくて、いつもの延長上の時間が愛おしいー狩野という精神科医が、「一緒に過ごす(いるんじゃなくて一緒に経験する)時間が家族を作る」とおっしゃっていたことを思い出してしまったー
が綴られる。
それだけじゃない、この元妻となぜ離婚しているのかと頭をひねる関係性ー仕事中心で家族をないがしろにして、カールが勝手に家を出たのか?-からの展開ーカールの人間的成長の物語でもある。
これだけいろいろなイシューを、こんな小品でまとまり良く、気持ちよく描けるなんて!
役者で私の推しは、
パーシーを演じたエムジェイ・アンソニー君。拗ねた顔、喜んだ表情、反省した顔、困惑した様子、泣きたい顔、初めての経験、料理人としての顔…。その時々がとても繊細で愛おしく、カールが生き方を変えていくのも当然と思わせる。今後が楽しみ。
そして、ラムジーを演じたオリヴァー・ブラット氏。がっかりした時、満悦な時、そう、それなんだよ!!!と、一緒にこの映画(料理)を楽しんでしまう。
そして外せないのが、飯テロ料理と音楽。
内容的には子どもと見たい映画に仕上がっている。
「離婚はお前のせいじゃない」とはっきり子どもに告げるところは特に見習いたい。
元同僚へのマナーも見習いたいー上記のブチ切れでもあれだけ喧嘩した元職場の経営を心配し、ロスに戻ってからは、元職場に意趣返しするのかと思ったら…-元の職場の評判落としても仕方ないし…。
けれど、何気に挟まれる下ネタ。あんなコーンスターチの使い方は初めて知った('_')。
エンディング後半には、カールがパーシーに作るホットサンドウィッチの作り方(料理監修者がカールに指導している映像)が出てくる。
これはもう、作るしかない。カロリーなんて気にしていられない。
カロリー消費に、音楽に合わせて踊ればいい。
どこで、どんな風に、仕事をして、生きるのか。
さりげなく、背中を押されてしまった。
すべてに満悦。
腹落ちしまくりのレビュー、素晴らしいです!
>販促としての本編映像としても流れているけれど、無料だからと焦げたサンドウィッチを提供しようとするパーシーに、カールが言う言葉。
このシーン刺さりましたね。
>パーシーを演じたエムジェイ・アンソニー君。拗ねた顔、喜んだ表情、反省した顔、困惑した様子、泣きたい顔、初めての経験、料理人としての顔…。その時々がとても繊細で愛おしく、カールが生き方を変えていくのも当然と思わせる。今後が楽しみ.
おっしゃるとおり!あの多彩な表情。窓から父母のやりとり見ている表情とか。感嘆としました。
ブレイクダンス?も上手に踊っているシーンも一瞬あったような。それにかわいいし!
>喜びは分かち合い、残念な想いには警報・注意報を出したくて、レビューを投稿する。
まさにそう!レビューは「愛」からなんですよね。
(偏狭な愛は困ったものですが。)