「ドイツから見た南京事件」ジョン・ラーベ 南京のシンドラー バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
ドイツから見た南京事件
日本では劇場公開されずDVD化のみとなった映画。理由はもちろん南京事件(南京大虐殺)を題材とした映画だから。
なかなか面白かった。『南京!南京!』ほどまでの傑作ではないが、まずは佳作と言っていいだろう。あくまで「南京事件に直面したラーベ」を描いているので、いわゆる“キツい”描写はさほど無く、一般的な戦争映画の範疇に収まるものばかりであり、だからこそ『南京!南京!』のような傑作たりえていないとも言えるのだが。
史実と映画の違いなどについてはDVD付属のミニ冊子でも解説されているが、大きな違いはラーベに敵対する人物として香川照之演じる朝香宮鳩彦王中将が設定されていることだろう。実際にはラーベと朝香宮には面識がなく、朝香宮は南京事件にも直接的には関与していない。南京事件において朝香宮がクローズアップされることは日本では非常に珍しいが、解説によるとヨーロッパでは貴族や王族が最終的には全ての責任を全うすべきという「ノブレス・オブリージュ」が基本的な考え方だそうで、それが映画の描写にも影響しているのだろうとのこと(そういえばアニメ映画『機動戦士ガンダムF91』にもこのネタが出てきていた。さすがは富野由悠季)。それを読んでふと思ったんだが、昭和天皇の戦争責任論にも通じる考え方なのかもしれない。
DVD付属ミニ冊子の解説によると、他にも実際には南京に残る決意をかためていたラーベが映画では帰国すべきか残るべきか迷っていたり、実際にはすでに帰国しているラーベの妻がまだ南京に残っていたりという違いがあるようだ。またパナイ号事件や百人斬り競争などラーベとは直接関係ない事件も、ラーベと関連づけられていたりするが、大筋では史実に沿った展開となっている。ただヨーロッパ映画なのに若干ハリウッド的なエンタメ化がされているのはちょっと気になった。