「匿名的な物語と長ったるいショット」青の光線 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
匿名的な物語と長ったるいショット
幾度となく見た匿名的な物語が必然性のない長回しで80分に引き延ばされた映画だった。在日、売春、非行、家庭不和といった諸問題はオブジェクトのように画面上に淡々と配置されているばかりで登場人物たちの内面と結びついていない。
自然さを狙ったのか凡庸さからの逸脱を図ったのかは定かではないが、辛辣な語彙が飛び交う会話はかえってアンリアルで気まずい上滑りを起こしていた。だいたいクズにクズと言ってみたところで表層的な事実確認にしかならないわけで、そんなことで関係性に進退は生じない。イコールで結ばれた二つの変数が同じ値を永遠に交換し合っているようなものだ。
ただ、夜の橋の上で二人が小競り合うシーンはよかった。サンジに罵詈雑言をぶつけているとき、陽子の表情は橋の陰に隠れている。しかしサンジが「じゃあ俺死ぬわ」と言うと、明らかに押し黙り、動揺を滲ませた陽子の表情が電灯の下に析出する。ここで初めて両者は真の意味で邂逅を遂げ、サンジは麻薬ブローカーから足を洗うことを決意する。
とはいえサンジが辿る顛末には何の面白みも深みもない。ガラにもなく花屋で花束を購入した瞬間に彼の末路はだいたい予想がつく。許されざる罪を背負った人間が何かとの出会いを経て更生へ向かう物語というのは『ゴッドファーザー』だろうが『仁義なき戦い』だろうが最終的には報われないというのが常道であり倫理であり、したがってサンジが死ぬという結末自体を否定する気はない。ただ、あんまりにも殺し方がステレオタイプすぎるものだから何も感じない。社会に対する個の矮小さみたいな地点を狙っているにしてもヒリついた感じが不足している。映画史のお作法に則ってとりあえず撮った感が否めない。その凡庸さを誤魔化すように挿入される風景カットにもうんざりする。こんなやり口でお茶を濁すくらいなら初めからサンジを殺すべきではないだろ、と思った。