新宿スワン : 映画評論・批評
2015年5月19日更新
2015年5月30日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー
歌舞伎町を舞台にアブナイやつらが群雄割拠。重層的な熱いドラマ
シンプルに言えば、「クローズ」シリーズの“大人版”。だが、のし上がるために己のプライドだけを懸けて拳をまみえた高校生たちとの決定的な違いは、すべてにおいてビジネスが絡むという点である。しかも、舞台は世界有数の歓楽街で人種のるつぼ、新宿・歌舞伎町。さまざまな欲望、野望、謀略が錯綜する、重層的な熱いドラマだ。
スカウトを生業とするバーストの新人スカウトマンに抜てきされた白鳥龍彦(綾野剛)。夢を売る商売といわれるスカウトだが、女性の“就職先”が思うようにならないことも多い。不器用で非情になりきれない龍彦だが、「俺がスカウトした女は、必ず幸せだったと言わせます」と虚勢を張り、どんな障壁にも一心不乱に突き進んでいく。その前向きな姿勢は痛快ですらあり、太い軸として作品に小気味よいテンポをもたらす。
龍彦の周囲は常にかまびすしい。知略に長けた真虎(伊勢谷友介)、武闘派の関(深水元基)らバースト幹部ですらいかにも怪しく、ライバル社のハーレムは露骨に非合法な手段を使い挑発してくる。さらに、ハーレムで暗躍する秀吉(山田孝之)の龍彦に対する私怨まで加わり、混迷の度合いは増す一方だ。
心にイチモツあるアブナイやつらが群雄割拠。当然、対決となれば容赦がない。目抜き通りで、裏路地で、風俗店でと所構わず暴れまくる。それぞれの個性を際立たせながらのアクションの波状攻撃は、園子温監督ならではの躍動感。龍彦VS秀吉のクライマックスまで一気に見せきる。
そして、数々のドラマを引き立たせる歌舞伎町の景観も見逃せない。かつて「眠らない街 新宿鮫」や「犬、走る DOG RACE」など撮影が制約された例は数多くあるが、極彩色のネオン輝く華やかさと、すえた匂いが伝わってきそうな裏路地のみだらな雰囲気がリアリティを増幅させる。一部は浜松でのロケだそうだが、実に見事なもので、もうひとつの主役といえる役割を果たしている。
(鈴木元)