「大人の鑑賞に耐えるインド映画」めぐり逢わせのお弁当 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
大人の鑑賞に耐えるインド映画
映画の中に自分がいる。やもめ男も、帰宅しても会話のない夫も、どちらも自分の今の生活の一面のコピーそのものだ。自分と重ね合わせることの出来る部分があまりに多く、常に現実の自分を意識するために、映画の世界に没頭することが出来なかった。
しかしながら、作品の質はというと、端的な描写と、最低限のセリフを効果的につなげて登場人物の心情や境遇を理解させる、非常に映画的な語り口の魅力に溢れたものだ。
そもそも、弁当を介してやり取りされる手紙の内容も、言葉数少なく、それでもお互いのことについて理解を深め合うのに十分なものだった。
さすがに、通勤電車の中で夕食用の野菜を刻むシーンには笑ってしまったが、あのキャラクターもまた変わり者で、誰とでもうまくやれるタイプの人間ではないことを強く印象付ける、忘れられないシーンだった。
物語を語るうえで、背景や心情を全てセリフで説明しながら進行するTVドラマとは、まったく異なる、大人の映画鑑賞に耐える作品だった。この夏のシネスイッチ銀座は2本のインド映画にかけていたようだが、どちらも成功だったのではなかろうか。
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