「抱きしめてやりたい。」ショート・ターム ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
抱きしめてやりたい。
ショート・タームとは青少年向け短期保護施設の名称で
虐待や心の問題を抱えた青少年を一時保護するらしい。
施設ではケアテイカーと呼ばれる職員が働いているが、
彼らは敷地外へ出た少年たちに一切触れることができない。
そのため、緊急サイレンが鳴ると彼らを全力で追いかけて、
敷地内で何とか追いつき彼らをなだめ落ち着かせるのである。
奇声を発し半狂乱で飛び出した彼らの呼吸が静まっていく…
冒頭のこの光景を観るだけでショックを受け、興奮度は大。
物語はここで働くマネージャーのグレイスを追う。
しっかり者で皆の世話係を一手に引き受けている彼女だが、
実はある秘密があった。同僚の彼メイソンとの間に子供が
できるが、なぜか彼女は堕胎しようとする。一体どうして?
時を同じくして施設にジェイデンという少女が入所する。
彼女のケアを任されたグレイスはとある事実に気付くのだが、
それは自身の抱える問題と向き合うことを意味していた…。
冒頭の走り込みから一気に引き込まれ、観ている間ずっと
呼吸が乱れっぱなし。恐怖と悲劇が喜びや希望に変わるかと
思うと、突如絶望に変化。こんな感情の起伏を私達一般人は
なかなか体験できない。家庭で実際にこんなことが起きている?
と疑いたくもなる彼らの於かれた現状に、胸が痛くなるばかり。
だったらずっと、この施設に置いといてやれよ!とも思うが、
それができない。彼らはいずれ親元へと返されるのだ。
人間は無力だと感じずにはいられないが、それでも後退しない。
グレイスは、自身の問題解決を図ろうとジェイデンに
どんどんのめり込んでいくが、その強さは自分を守る温かい愛が
あってこそ。お互い不幸な出自でもメイソンは愛情溢れる養父母
によって育てられていた。それがどんなに大切なことか分かる。
ドキュメンタリーを元に構成されたらしいが、
そのリアル感を全く失わず映像に収めている。是非全国公開
されて欲しいと思う秀作である。短期ではなくもちろん長期で。
(登場人物を全員抱きしめてやりたい。人生を諦めずに頑張れ!)