「癒す人も傷ついている」ショート・ターム arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
癒す人も傷ついている
問題を抱えたティーンエイジャーが暮らす(ショート・ターム21〉を舞台にしたドラマ。
親の虐待、肉親の死で心を病んだり、収容されている少年少女の事情も様々だが、彼らの世話をするスタッフもまた過去に問題を抱えていた。
若きケアマネージャーであるグレイスもまたその一人。
妊娠、かつての自分を思い出させる少女ジェイデンの入所で、彼女の心も不安定になる。
自分が経験者だからこそ寄り添えるというのも事実だが、彼らに対する度に過去の記憶が蘇り、傷口が開きそうになるのも確かだ。
この施設では基本的に入所期間は1年未満とされていて、スタッフが彼らに関わるのはほんの短い期間で、施設を出た後の彼らをずっと見守って行けるわけではない。
でも、その期間の中で精一杯寄り添い、なるべく前向きな姿勢で送り出す、きっとどこの国の同じような施設でもスタッフの思いは同じなんじゃないかと思う。
未だに虐待による心の傷を抱えているグレースに対し、同じスタッフで恋人でもあるメイソンは愛情溢れる里親に育てられ、危機に陥るグレイスを支える。
そのメイソンが冒頭で新人スタッフネイトに語る収容者の少年のエピソードとラストのマーカスのエピソードが対をなす円環構造になっている。
ブリー・ラーソンの出世作であり、今ではブリー・ラーソン、ラミ・マレックという二人のオスカー俳優を輩出したが、個人的にとても印象に残ったのは、18歳になり退所を控えたマーカスを演じたキース・スタンフィールドだ。
彼が母親への想いをラップのリリックで表現するシーン、髪を剃って母親から受けた暴力の跡がないか確かめるシーンには泣かされた。
彼は今作に出演後、『グローリー/明日への行進』『ストレイト・アウタ・コンプトン』『ゲット・アウト』等話題作に出演、確実にキャリアを伸ばしている。