「02.どうしてこうなった…」ハーモニー みーやさんの映画レビュー(感想・評価)
02.どうしてこうなった…
個人的に伊藤計劃の本が好きで「Project itoh」の3作は読んでいるのでそこをふまえてのレビューとする。
屍者の帝国と違って基本的には原作通りに進んでいたものの小さな改変で作品を全く違ったチープなものに変えてしまったのが今作である。
まず、序盤に変なモニュメントみたいなものがでてきてetmlの記述を始める。これはハーモニクス後の世界の光景だがなぜか最初に見せてしまうのだ。こんなにモロ見せでしょっぱらから出てくるとは…。しかもその後ラストまでタグの記述は一切出てこない。本作においてタグはかなり重要な意味を持っていると思うし劇中でもテキストとして要所ででてきて欲しかった。なぜタグを記述しているのかが最後のシーンで一気に解明することでなんとも言えないカタルシスが生まれるのがいいというのに。
トゥアレグ族とのやり取りも重要な所をなぜかカットしていてトゥアレグ族を通しての世界のバックグラウンドが見えなくなっている。
日本に渡ってからは改悪もなく、忠実に作っていて良かった。特に全ての人間が生府の管理下にあり、社会的リソースであるという社会の全てが均一でフラットな光景は非常に気持ち悪い印象を与えていてよく出来てに問題なく流れる。
いた。ここからラストまでは(やや説明が口説いが)特に問題なく流れる。
そして、最悪なのがクライマックスシーンであるチェチェンでのトァンとミァハの対峙するシーン。バンカーの奥で対峙するはずが地味な部屋になってしまっている。ひゅーひゅーという風の音が緊迫感を表すしミァハを撃った後にバンカーの先に行き、世界が見渡せる所でミァハの意識が終わり、トァンの意識も死ぬことで周りに広がる世界も同様に意識の終焉を迎えたことを悟るというのに…。これは演出の問題だから百歩譲って仕方がない。だが、なんだラストのあのセリフは「ミァハだけはあたしの好きだったままでいて!」ドン。おい、おい!これじゃ、意味がまるで変わってくる。未練がましいにも程がある。これはキアンと父をミァハの勝手な都合で殺されたトァンの復讐と原作にも明記されている。ミァハにとってハーモニクス完成後の世界を生きられない事こそが最大の復讐になるのだ。そもそもこの未練がましい感じは最初の銃を撃つシーンにも当てはまる。劇中では電球を撃ってガラスの破片がキラキラしていて綺麗だなとしか思わないが原作ではミァハの頬を銃弾がかすめて血を流している。これがミァハとの決別を表し、未練や後悔を無くしているはずだったのだ。なんでこんな安易な解釈になってしまったのか。撃ってからの流れも丸まる無くなりハーモニクスが本当に実現されたのかも実感が得られない。なんとも消化不良なまま終わりを迎える。非常に残念な終わり方だ。
全体的な完成度としてもスタッフの期待値が高かっただけに物足りない感じがした。
おそらく賛否両論ある本作だが私は原作の内容に大いに感動しただけあって本作の改変部分ばかり目についてがっかりしてしまった。本作を受けて虐殺器官に期待がより一層高まった。