「死者はもう何も許すことが出来ないのだから」虐殺器官 なななさんの映画レビュー(感想・評価)
死者はもう何も許すことが出来ないのだから
一度足りとも崩れない映像の美しさ。目に大きな穴が突然開いたり、少年兵の頭を射撃ゲームのように爆破するような、どんなに吐き気を催すような場面であっても目を離すことが出来なくなるほど、とにかく映像美は圧巻でした。美しい、という言葉は不適切か。でもノイタミナ系列の映像技術の高さ、本当に凄い。
それでもこの評価なのは、今映画における主人公クラヴィスがあまりにもただのお人形に格下げされたから。
ジョン・ポールの話としては忠実であろうとしたと感じ取れましたが、代わりにクラヴィスの原作における彼の個性らしい個性を全て剥奪。申し訳ないのですが、彼に対しては将来禿げそうな前髪の生え際ばかりを気にしてしまった記憶しかないです。折角の語り部兼主人公なのに。
それを奪うことでジョン・ポールの話に主題を合わせたかったのかなあと無学ながらに納得しようとしたのですが、それにしても蔑ろにし過ぎじゃないのかなあ。視聴者としては彼に感情移入ができなければ置いて行かれてしまう物語だし、何よりルツィアへの執着の説明が(その気が多少原作においてもあるとしても)ジョン・ポールの掌過ぎる。母親の話の一切を削るなら、その辺り力技で進めるにしても感情移入出来るエピソードを他にちゃんと入れて欲しい…。原作通りにしろとは言わないから、別の言葉に響いたって構わないから、感情移入出来る器を作っておいてくれよ頼むから。
原作にある良い台詞も、残念ながらジョン・ポールのもの以外は全然響いてこなかった。感情の流れ、その上で紡がれない言葉に一体何の意味があるのか。地獄はここにあります、頭の中、脳味噌の中に、というアレックスの言葉は、彼の自殺の上に語られねば真意はわからない。これは、尺の関係もあるから仕方ないとは言え…。ぐぬぬ。でもクラヴィスがしっかりしてるなら、アレックスの件は多分流せました。
此処での評価が高いのは、恐らく描きたかったことの軸をぶらさなかったからだと思います。ジョン・ポールの物語としてはきちんと筋が通っていますので、本を読むのが大変で、物語の本質を追いたいのであればいいのでしょうが、原作ファンとして、物語として作品を楽しんだ勢としてはこれらの点で全く納得いかない。
ハーモニーも最後の結末、トァンの感情処理の仕方に不信感ばかりが募ったので、多分Projectの皆さんと原作解釈が合わないんだろうなあ、と正直ガッカリしました。そのハーモニーでも二回観ましたが、今回はもう観ないと思います。
伊藤計劃は自らの死後、誰かに彼の物語を語られることでその人の中に生きたいと願ったと言います。彼の物語を読んだ上で語られる様々な物語があるでしょう。今回もその一つだとは理解しています。けど、この物語を、一つの公式には正直、して欲しくなかったなあ。
個人的には今回の話は、許せません。