「添い遂げる。」妻への家路 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
添い遂げる。
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「文革が夫婦に齎した悲劇を描いたメロドラマ」だとは思うのだが、
例えば舞台を中国だとか記憶障害を心因性だと決めつけず観てみると、
アルツハイマーを発症した夫や妻を介護する家族の話にも観てとれる。
愛する人の脳裏からすっぽりと抜けてしまった自分の存在。
すぐ隣にいる自分を探している妻の姿に何度も打ちのめされる夫。
こんな哀しみはないだろうと思う反面で、それでも愛情を持ち続けて
日々の介護や面倒を看るのが家族なのだ。ふと我に返り想い出す日が
くるかもしれない。今作の夫の毎日にはそんな期待が籠っている。
文革終結の3年前、脱走して妻子に逢いにきた夫を娘が党に密告する、
その過程も切ない。娘には優しい父親の記憶すらない。ただ反分子と
してしか捉えられない当時の娘の行動を母親は恨み、娘を追い出して
現在の記憶を封印する。その和解を促すのも還ってきた父なのである。
娘のバレエを二人で見るシーン。夫の手紙を読み聞かせて貰うシーン。
どこかで記憶が戻らないかと、期待しながらこちらも見守るのだが…
淡々と描かれる家族の日常に文革時の緊張はなく、大きな事件もない。
ただゆったりと流れる時間の中で妻と夫が隣人の会話を交わし、時々
逢うような設定だ。プラカードを掲げ駅で夫の帰りを待つ妻を、静かに
隣りで見守る夫の姿に涙が溢れるが、添い遂げるとはこういうことか
と深く想い入る部分がある。哀しくも温かみを感じさせる稀有な物語。
(お玉を持って方さんを訪ねるシーンは少し笑えるが、それ以外は皆無)
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