「定石は全て覚えてから忘れて打て!」完全なるチェックメイト kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
定石は全て覚えてから忘れて打て!
多分、かなりの脚色があるかのような作品。1943年生まれのボビー・フィッシャーが活躍した時代は米ソ冷戦下であるためか、ソ連嫌い、ユダヤ人嫌いという設定にしてある。両親はモスクワで結婚しているし、ソ連のスパイ扱いされた経緯も理解できるし、時代に合わせたスリリングな展開になるはずだった。また、それまでのチェス世界チャンピオンがずっとロシア人だったこともあり、冷戦の代理戦争のように描かれている。なお、原題のポーン・サクリファイスは、ボビー・フィッシャーも世界チャンピオンのボリス・スパスキーもそれぞれニクソン、ブレジネフの捨ててもいい駒に過ぎないことを意味している。
残念なことに、それが生かされてない!スパスキーとの対決をメインにはしているが、彼の被害妄想や奇行はソ連やユダヤ人、KGBとCIA、モサド・・・色んな権力に反発しているため焦点が定まっていないのだ。常に盗聴の心配をする様子は面白いけどしつこいし、実はスパスキーも同じように被害妄想があるなどという展開もそれほど驚かない。日本人としては、将棋の世界を見ても、定石を覚えていたところで精神に異常を来たすまではひどくないんじゃない?という感覚も邪魔してるのかもしれませんが・・・
面白かったのは、定石を無視して奇抜な駒を打ってスパスキーを負かすところ。また、静寂が大好きなために世界戦なのに卓球室でプレーするというところ。スパスキーが椅子を調べ始める行動なんて、同病相憐れむといった感じで冷めた目になってたところが挙げられるだろうか。また、世界戦が始まってからアメリカのチェス熱が盛り上がったという点。やっぱりソ連に独占されてたから興味なかったんですね~
音楽もアート・ブレイキー、ベンチャーズ、ドゥービー・ブラザース、ジェファーソン・エアプレイン、CCRと好きな分野ばかりでした。ただ、その場面で使うのか?と意味不明な選曲が残念といえば残念でした。