「静けさの中」繕い裁つ人 Arcoさんの映画レビュー(感想・評価)
静けさの中
静かで美しく丁寧。
衣擦れの音や、ミシン針が布に刺し入る音、木の床に響く靴音など、普通の映画だったら邪魔になってしまう『雑音』が、この映画の中では『大切な音』となっていた。
洋服を何度も仕立て直して着る。大切にする。
とても素敵なことだ。
そして、現代ではなかなか無いこと。
モダンとされる洋服も、現代っ子にとってはダサい。
そして、高い。
ペラペラだろうと縫製が雑だろうと、安い流行の服を何十着もとっかえひっかえするのが『ファッションの中心』である今、仕立て屋どころかミシンのある家さえ珍しい。
直してまでずっと着たくなるような服とは、出会うチャンスが無い。
ときめくチャンスが無いのだ。
私は安い服でも何でも、破れたりほつれたら自分で縫うが、周囲には「え?なんで?新しいの買えばいいじゃん」とサラッと言われる。
直すこと自体がすでに『イケてない』ようだ。
そういう価値観の人も、この映画をきっかけに「こういうのも素敵だな」と思うことができれば、それこそ素敵である。
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