「過去に学ぶ労働意識。」バンクーバーの朝日 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
過去に学ぶ労働意識。
バンクーバーに戦前存在していた日本人野球チーム朝日軍。
2003年には殿堂入りも果たしたというその軌跡を丁寧に描く。
これまた石井監督、すごい題材を持ってきたなーと、初めは
思った。大変失礼ながら朝日軍の事をまったく知らなかった。
何しろ戦前の、しかもカナダの、野球チームの話である。
観る前に何か…と思っていたら、ちょうど深夜TVで番宣が。
滝藤賢一が一人芝居で当時の移民歴史を詳しく毎夜連続で
放送していた。これがまたよく解かる!内容で、今思えば
これを見てから本作を観たので、非常に助かったといえる。
何しろこの作品(別に悪くはないけど)、冒頭の語りで歴史が
終わってしまうのである。まぁ野球メインのお話なんだから、
この朝日軍のことさえ描けばいいのだろうが、初めてそれを
知る人間からすると、なぜ彼らが野球チームを結成したのか、
今どんな状況に於かれているのかが分からない。ほぼ唐突に、
「勝てない朝日軍」の話から入っていくのである。それまでの
日系移民の苦労や困難が(レジーの親で語られるけど)あって、
この野球に懸ける意気込みや思い入れがグーッと強まるのに。
まぁそれはいいとして。。
冒頭から毎度毎度勝てない朝日軍の話で日本人街はもちきり。
身体プレーの大きいカナダ人に対しなかなか勝てないことに
業を煮やしたレジー(妻夫木)は、ある日ふと「バント」走法を
思い立つ。身体が小さいならばそれを存分に発揮すればよい、
盗塁、ヒット&ラン、などをどんどん取り入れていき朝日軍は
連続勝利をおさめるようになる。とはいえ、ここでは白人が
主導権を握っているのもあり、彼らの生活が楽になることは
到底なかった。しかし夢や希望を持ち誠実にプレーを重ねる
日本人に、やがてカナダ人も敬意を持つようになる…という、
ものすごく感動する話なのだが、後半、真珠湾攻撃のニュース
を皮切りに、彼らの功績は一気に反日態勢へと流されていく。
苦い歴史の構図もしっかりと描かれる。
描き方がリアルでエンターテインメント性は低い。
なんで野球映画なのに、こんなに盛り上がらないんだ?という
意見が多いのも分かる気がする^^;が、鬱屈した彼らの生活が
野球の功績を残すことで少しだけ救われる。だからレジーの
妹が発する真っ直ぐな意見にも賛同できる。海を渡って…と
いうなら、日本にも海外からの外国人労働者が多く存在する。
低賃金で過酷な労働に文句を言わず、勤勉に働く外国人が多く
存在するとやがてどうなるのかを体験した身には、彼らから
学ぶことも実は多いんじゃないかと過去の歴史が教えてくれる。
(エンディングで、実際のOBがチラリ登場するシーンに感動)