「テンション低め。」バンクーバーの朝日 三遊亭大ピンチさんの映画レビュー(感想・評価)
テンション低め。
「バンクーバーの朝日」見ました。
次期名将候補筆頭・石井裕也監督の待望の新作。今年度は「ぼくたちの家族」が最高の名作でした。あれは個人的本年BEST映画です。なので期待してましたが、少し残念な部分が目立つ今作でした。実話なので、貶したい所も受け入れるべきか悩み中です。実際面白かったけど、不満も多い。
石井裕也監督お得意の”セリフ少なめ”演出。これは前作では非常に活きていた。前作は登場人物と場面が狭い世界で展開されるので、セリフが少なくてもキャラの心情が飲み込みやすかった。が、今作におけるこの題材ではただの説明不足にしか感じなかった。本上まなみさんやユースケさんなんかに当てはまる事だけど、登場が意味深風な割に話の本筋に関係ない。特にユースケさんは明らかにワケありにしか見えないけど、ホントいてもいなくてもいいようなキャラだったとは。これは失望というか、意図がまるでわからない。佐藤浩市ファミリーの描写に力を入れすぎたあまり、その他が薄っぺらくなったという事にしておきます。あと、佐藤浩市さんは好きだけど、とにかく存在感が強烈すぎて他の全員の存在感を薄くしている。ミスキャスト感は否めないか。宮崎あおいも貫地谷しほりもね、何だったのでしょうか。亀梨さんも何か浮いてるし、というか彼が映ると説得力が薄まる気がする。
野球描写もヒドい。演者のグラブ捌きやバットスイングに素人感が強いし、経験者で役者を固めた点を推しといてそれはないかと。唯一、池松壮亮の守備の一連の動きはホントに上手かった。全体で言うと、小技とデータを駆使した野球であそこまでチームが強くなるとは考えにくい。そして決勝戦、先頭打者の2球目にホームランを叩かれてバテバテな亀梨。2球放っただけであんなにバテる事は、例えホームランを打たれたとしても絶対にあり得ない。見せ場は大切だけど、雑な気がする。
この映画は人種差別と戦った日本人の話だと、鑑賞以前にどこかで聞いた。蓋を開けてみれば、闘ってる訳ではない。亀梨さんと佐藤浩市さんが僅かに戦っているように見えたが、全体に「とりあえず日本人としての誇りを捨てない」という風なメッセージだけを受け取った気がした。もし人種差別と戦う姿を描いた作品だとしたら、悲惨で救われないこの映画のラスト、そこから受け取るメッセージは、「結局野球は野球以上にならなかった」という悲しい事になってしまう。ラストをあそこまで丁寧に描く必要があるのかが分からない。決して美談ではないという意味合いなのだろうが、なら野球を頑張った彼らの功績とは何?と聞きたい。