「一つの事件の全貌を本気で解明するためには、これだけの時間と労力が必要なのだ」ソロモンの偽証 後篇・裁判 Chisaさんの映画レビュー(感想・評価)
一つの事件の全貌を本気で解明するためには、これだけの時間と労力が必要なのだ
「心の声に蓋をすれば、自分が見たいものしか見えなくなるし、信じたいものしか信じられなくなる。そのことが一番、怖いことなんだなぁ(現校長の台詞)」
何か事件が起こったとき、その原因は必ずしも一つではない。
学校のように大人数が属する組織の中で起こった事件であればなおさら、様々な要因が複雑に絡み合って事件につながる。
その原因の全てを明らかにし、加害者と被害者だけでなく全ての関係者において問題を解決し、何一つグレーで終わらせないようにするためには、ここまでしなくてはいけないのか、ということを思い知らされる作品。
確かにとても長い作品であることに間違いはない。
原作小説は全6巻だし、映画も登場人物を減らしたり(重要人物に思えた柏木兄は出てこなかったし、井出と橋口もさらっとしか描かれなかった)、柏木くんの人格描写のシーン数を少なく凝縮したりしたにもかかわらず、前編後編あわせて5時間もある。
でもそこまでしないと、この事件を、全ての登場人物にとって満足のいく形で終わらせることはできなかった。
神原くんが最後まで真実を話さなかった理由を解明すること。
元校長が取った行動の真の意図(保身ではなく、純粋に生徒を守りたかった)と、自分の過ちを認めた彼の真摯さを伝えること。
森口先生の真実を明らかにすること。
柏木くんの死に対して大出くんを単なる「無罪」で終わらせず、彼が今までしてきた悪事を白昼の元に晒し、自分の「罪」に気付かせること。
告発状を書き、裁判では死んだ松子のせいにしてまで自分の主張を通しさざるを得なかった三宅樹里の絶望を、学校全体に訴えること。
その全部が完璧に描かれていた。
だから、見終わったあとに言葉にならないほどの爽快感を得た。
成島監督というのは「八日目の蝉」の監督だったね。
「八日目の蝉」も大好きな作品だったから(私としては原作の何倍も良かった)、すごくいい作品を作る監督だなぁ。
以下戯言。
大人たち、やけに素直だな。
なんだかんだ文句を言っていた先生たちも全員出席しているし、証人として話す大人たちも律儀に敬語だし。
主要メンバーの保護者が興味を示すのはわかるけれど、そうでない生徒の親までもが夏休みのクソ暑い体育館に生徒たちのなんちゃって裁判を見に来るか?というのはちょっと疑問だった。
・・・なんてことを考えてしまうのは私が年をとったからかなぁ。
大人になった涼子も言っていたけれど、中学三年生だからできたこと、という言葉の通りだと思う。
しかも、あの時代(1991年って私まだ4歳だったからどんな時代だったか知らないけど)だからこそ、な気がする。
真面目で、なんだかんだ素直で、反発こそすれ教師や親という存在を敬っている子供たち。
今だったら、というか私が過ごした中学三年生時代だったら、こんな展開絶対ないわ。
何か一つの課題に、長期間にわたって大勢で力を合わせて取り組む、という経験をした記憶がほとんどない。
自分が中学校三年生のときとか、イジメもあったけれど根本的な解決とか考えもしなかったし、具体的に自分の受験勉強と彼氏のことしか考えてなかったわ。クソだわ。
そんなんだから、
終盤、神原くんに対する涼子の演説には少ししらけてしまった。
自分があの場にいたら、「うわー」とか言って大げさに身震いしながら白目を剥いて退席したかもしれない。
ただそのどっちらけ感はほんの一瞬のことで、エンドロールが流れてくる頃にはもうこの作品に対する充実感でいっぱいになっていた。
あのシーンだけを切り取るとシラケてしまうけれど、全体としてみればやっぱり壮大で壮絶で、最後までやりきった生徒たちのパワーとエネルギーに尊敬の念を感じる。
神原くん、本人も役柄もイケメン過ぎ。
ちょっと滑舌が悪いところが完璧じゃなくて余計にいいよ(完全に好みの問題
映画も小説も、余計な恋愛要素が一切ないのが素晴らしいと思った。
一気に安っぽくなるからね。
大出くんは「渇き。」の少年役だった。
ひ弱な少年と学年一の不良、という真逆の役どころをこなすというのも役者としてすごいことだと思う。
これで若干16歳かよ。なんなんだよ。
主演ではないけれど、一番演技が凄かったのは柏木くんなんじゃないかと密かに思っている。
神原とのシーン、「救いようがないって言ってるんだよ!」の声と目付きには鳥肌。
調べてみたら「マザー・ゲーム」に出ていた子だった。
問題を抱えて苦悶する思春期の少年役が上手いというのは役者としてとても立派なことだと思う。
望月歩くん、今後も注目しよう。
あとはオーディションから撮影秘話までが収録された特典映像も、たっぷり楽しんだ。
学年一の秀才で判事を務めた井上役の西村成忠くんが、実は学校の英語のテストで15点だったというのがハイライト。
いいギャップだな。