「映画としての出来映えよりも」海難1890 お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
映画としての出来映えよりも
史実として日本がトルコを助けたこと、そしてトルコが日本のために救援機を飛ばしたこと、この2点の史実だけで、ここまできちんとした作品を作り上げられたことに感嘆しました。
日本人が「海の民」として、太古の昔から、海で遭難した者が出れば何を投げ打ってでも助けるという美風を有していたことが、この作品のキモになります。
この映画において、英雄は一人ではありません。数名でもありません。
ハリウッド映画とは対照的に、ここは日本なのです。
人々は自分自身が英雄であることすらも知らぬままに淡々と生き、年老いて、次の世代にその生きざまを引き継いでいくだけです。
しかしその日本人としての生き方こそが、真の勇者の生き方であるのだと再認識させられるのでした。
トルコが1985年に、イランイラク戦争さなかのテヘランに救援機を飛ばしてくれたことが、次のポイントになります。
このエピソードは、しかし1890年の遭難の時の恩返しという意味付けはごく薄いのです。
むしろ、トルコ人がトルコ人として生きている生き方こそが、英雄的なのです。
まったく異なる宗教と言語と人種である両国が、それぞれのまっとうな生き方として選んだものが、他人を助けることであったという共通点を味わってみるべき映画だと感じました。
もちろん、この両国の絆が強まることは、地政学的にも好ましいことです。古代中国の范雎ではありませんが、日本が近隣に非友好的な複数の大国と接している現在、両大国の下腹部に親日的な友好国が存在していることが、どれほど好ましいことであることか。
まさに「遠交近攻策」ですね。
トルコ側の全面協力で成立したこの映画が、少なくとも日本とトルコでヒットすることを祈願しています。