「有り勝ちな話を軸に“一見”普通の人物の異物感を丁寧に描いた作品。」紙の月 Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
有り勝ちな話を軸に“一見”普通の人物の異物感を丁寧に描いた作品。
良かった。
特筆すべきは主演の宮沢りえ。
彼女の表情、言動、雰囲気の表現力。
彼女の佇まいで状況の理解が深まり話に惹き込まれていきました。
特に表情。
序盤、頼りなさげな表情から始まり。
土俵際で正気と狂気が入り混じる表情。
一時の享楽に身を任せている時の表情。
そして完全に土俵を割ってしまった時の表情。
表情に凄みが増していき、思わず息を呑む場面もあり圧倒されました。
長く続いた緊張がフッと切れる瞬間の表情もグッときました。
相手役の池松壮亮も良かった。
時間/関係性の変化により多面的な側面を見せると同時に。
序盤から或る結末を匂わせる雰囲気を醸し出す。
どこか陰のある屑を演らせれば随一。
交接場面の演技巧者振りも安心感がありました。
その他周りを固める俳優陣も安定感があり話に没入出来ました。
また登場人物像を表す描写も良かった。
話の大筋自体は目新しい要素が少ない「横領事件モノ」。
予想通りの筋の中で、登場人物達の実像が細かい描写で示される。
「何もない普通の主婦が不適切な関係を機に」という分かり易い人物像から始まるものの。
過去の或る出来事から語られる梨花の人物像。
様々な解釈が出来る、その人物像にモヤモヤ感が残ります。
彼女は本当に我々がイメージする「普通の主婦」だったのか。
彼女自身は「普通」を理解していたのか。
その観点で一番最初の小さな不正(融通)の切欠は何だったかを思い返すとモヤモヤ感が増します。
鑑賞後、作品の解釈や未消化部分を他人と話したくなる作品でした。
惜しむらくは上映時間。
上映時間126分は少々長く感じました。
結論が予想出来る分それに至る道程はギュッと絞った方が良かったのでは。
90分程度であれば、という点は残念でした。
有り勝ちな話を軸に“一見”普通の人物の異物感を丁寧に描いた本作。
不透明な将来に囚われた2人の会話から始める終盤の展開も秀逸。
中身が無い上に、囚われ方が異なるため咬み合わない不毛な議論が続く中。
その停滞感を一気に吹き飛ばす打開策。
呆気にとられる中で掛けられる或る一言。
その唐突感、異物感、一種の納得感にグッときました。
有り勝ちな話に潜む小さな異物感の積み重ねを感じたい方。
オススメです。