劇場公開日 2014年8月30日

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リトル・フォレスト 夏・秋 : インタビュー

2014年8月27日更新
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橋本愛に訪れた大いなる転機 本音で語った誓いの言葉

現在の日本映画界にあって八面六臂の活躍を続ける女優・橋本愛が、主演作「リトル・フォレスト 夏・秋」をきっかけにさらなる飛躍を遂げようとしている。中島哲也監督作「告白」での演技で世間をあっと言わせてから4年。取材を続けてきた筆者と対峙した橋本は、18歳の少女として、誠実な眼差(まなざ)しをこちらに向けながら、胸のうちに抱える思いを隠すことなく話し始めた。(取材・文・写真/編集部)

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橋本が今作で演じる主人公・いち子は、都会で自分の居場所を見つけることができないまま故郷の山村“小森”へ戻り、自給自足の生活をしながら生きる力を充電していく。五十嵐大介氏の人気漫画を森淳一監督が映画化したものではあるが、劇中で“いち子”として生きる橋本からは一切の気負いが感じられず、これまでに見たことのない伸び伸びとした姿は、あたかも橋本自身が充電しているかのようにさえ感じることができる。

東北の四季の移ろいを写し撮るため、岩手・奥州市などで昨年7月の夏編を皮切りに、約1年間という長期のロケを敢行。橋本にとっては、「自分が激変した17歳と18歳をまたいだ1年間に撮影した作品なので、その時期に収められた記録みたいなもの」だといい、「『夏・秋』と『冬・春』とでは、全然違うんだろうなあという気持ちです」と照れ笑いを浮かべながら打ち明ける。

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今作が橋本にもたらしたもののなかに、食生活の変化が挙げられる。「偏食気味だったのですが、嫌いだったものがどんどん好きになっていったんです」。本編でも語られていることだが、「生きるために食べる、食べるために作る」という当たり前のことに思いをめぐらせる。

「レストランで運ばれてきたお料理に生のタマネギが入っていたとします。苦手なんですけど、私のもとに運ばれてくるまでのプロセスとか行程を想像できるようになって、『食べなきゃ!』という意識が芽生えたんですよ。なすびが嫌いだったのに大好きになりましたし、採れたてのピーマンを食べてからは『こんなにおいしいんだ!』って。食わず嫌いもなくなって、山菜とかに手を出しづらかったんですが、『おいしいかもしれない』という余裕を持てるようになってからは、ちゃんと口にして判断するようになりましたね」

そう語るように、劇中での橋本は見事なまでの食べっぷりを披露している。くるみごはん、イワナの南蛮漬け、栗の渋皮煮……。今作では、女性から人気の野村友里氏率いる「eatrip」チームがフードコーディネーターとして参加し、橋本に直接料理指導を行った。畑仕事に精を出すのはもちろん、魚や鴨をさばくシーンにも挑戦しており、いち子の心の洗濯を見事なまでに体現している。

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役作りについても特別なことはせず、どこまでも自然体だ。「女性らしさの反対側に位置する、山猿かっていうくらいがさつな部分もあれば、ひとりで抱え込んじゃう内気なところもある。すごくアクティブなところもあるけれど、ナイーブな一面だってある。肉付けというと大袈裟ですが、この小森という場所を嫌いになったり、好きになったりと揺れている一面が出せていればいいなと思っていましたね」。

そんな橋本にとって大きな援軍となったのは、共演する女優の松岡茉優の存在だ。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」、日本アカデミー賞を席巻した「桐島、部活やめるってよ」でも相まみえた、1歳違いの良き理解者。松岡のことを「すごくいい距離感なんです。現場で会うと落ち着くというか」と笑みを漏らす。今作でも出番こそ多くはないが、いち子の親友キッコとして存在感をいかんなく発揮している。「この現場ではひとりが多かったというのもあるかもしれませんが、久しぶりにセリフの掛け合いをして、それが茉優だからこそ緊張しないでできました。その日の夜は宿泊先の温泉でずっとしゃべったりして。私にとってはそういう時間がとても大事だったので、それに付き合ってくれて嬉しかったですね。私は人見知りというか、茉優みたいにオープンに人と接することができないんですが(笑)、彼女を見ているととても刺激を受けます」。

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2010年の銀幕デビューから、4年間で実に22本の映画に出演してきた(15年公開の『リトル・フォレスト 冬・春』と『寄生獣 完結編』を含む)。中学校まで熊本で暮らしていた橋本にとって、疾風怒濤の日々であったことは想像に難くない。筆者が初めて橋本を取材したのが、10年6月。中学生らしい初々しい表情で、「楽しさよりも難しさ、辛さを学んだ。これをバネに、別の顔を見せられるようにしたい。いろいろな作品で違う自分を見てみたいし、幅広く頑張っていきたい」と語っていた。

女優として未完成ではあるものの、果てしないポテンシャルの高さに多くの監督が橋本の起用を熱望する。「18歳になるときに、出会った人たち、出合った作品は含まれませんが、今までの自分を捨てようと思ったんです。振り返ってみると、勘違いしていて、とっても不快な思いをするようなことをしてきてしまったので、今はその負の部分を取り除いてやっている感じです。作品に失礼なことをしてきたんだなと思うと、たまらない気持ちになります。でも、やっぱり映画が好きなんで。どうしようもなく好きなんです。これからも、絶対にいい作品に関われるように……って思いがとても強いので、そのためにも出合える努力をしていきたいんです」。独白に近い誓いの言葉を耳にし、変貌を遂げようとしている橋本からは今後も目を離すことができないという思いにかられた。

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